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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《平成24年12月号》
売買契約書の作成について 3

【はじめに】
 前号では、売買契約の中でも、トラブルが多い「瑕疵担保」の問題と契約条項について説明を致しました。今回は、「危険負担」と言われる問題について説明をしたいと思います。

【危険負担とは?】
 民法には「危険負担」という考え方があります。大学で法律科目でも専攻しない限り聞かない言葉だと思いますので、ごく簡単に説明します。
 まず、危険負担の説明の前に、売買契約の「効果」を改めて説明します。売買契約を締結すると、「売主は商品を引き渡す義務」を負い、「買主は代金を支払う義務」を負います。ここまでは当たり前の話です。
 ここで、売買契約を締結した後に、商品の引き渡しが出来なくなったとします。売主に故意や過失がある(売主に原因がある)のであれば、売主が納品できない責任を負うことになることは当たり前です。では、売主にも買主にも原因が無いのに、たとえば第三者が原因で商品の引き渡しが出来なくなった場合には、どのように解決すればよいでしょうか。
 法律的に説明をすると「売主は商品を引き渡す義務」を負いますが、この売主の義務は不能で実現できません。このときに、「買主が代金を支払う義務」を免れるとするのか、この当事者によらない「危険」をどちらが負担するのか、という問題が「危険負担」と言われるものです。
 多くの方は、「まだ商品を納品していないのだから、代金を支払う必要は無いだろう」と考えるのではないでしょうか。このような結論とすることが、社会の常識(少なくとも買主の常識)に合致するようにも思えます。
 ところが、民法は、売買契約と同時に買主に危険が移転する、という考え方がとられているとされ、民法の定め方に忠実に従えば、この場合にも「買主は代金を支払う義務を負う」となります。この結論が「取引の実態にあわない」と思うのであれば、契約書において、取引当事者が正しいと考える内容を明記しておく必要があります。

【危険負担についての契約条項の例】
 多くの売買契約書では、「危険負担」について、「商品の引渡時」を境に、引渡前を売主の負担、引渡後を買主の負担と定められています。具体的には「本物品の引渡後に生じた物品の滅失、毀損、盗難については、乙の負担とする。」と定め、これにより、商品の引渡「前」に第三者の責任で商品が納品できないのであれば「売主」の責任に、逆に、引渡「後」であれば、「買主」の責任とよることになります。
 このような条項があれば、買主も納得できることになると思います。

【「引渡」とは・・】
 「危険負担」の問題は、これで解決できたようにも思えますが、微妙な問題もあります。今度は、商品が滅失した時に、「引渡」がなされたのか否かが問題となることもあるからです。
 たとえば、A社がB社に商品を販売し、納品先はC社だったとします。A社はC社の担当者が不在だったので、C社の玄関前に商品を置いてきました。ところが、この商品が第三者の責任により滅失したとします。「引渡前」の滅失であれば、売主の責任です(もう一度、納品をしなければなりません)。「引渡後」の滅失であれば、買主は代金を支払う必要があります。それにしても、「微妙」です。
 このような紛争を避けるためには、「引渡」についても、売買契約書に条項を定める必要があります。
 たとえば、「売主は、本商品を、○年○月○日、○○倉庫に持参して納品する。納品の確認は納品書への検印にて行う」といった条項が考えられます。
 これで、売主は「検印」をもらうまで責任を負うことが明確になりますし、納品伝票の管理が重要な仕事になることが分かります。

【最後に】
 今回は、「危険負担」という分かりにくいテーマを説明しました。分かりにくい内容かもしれませんが、買主にとっては、民法の定めが「買主の常識」に反しているかもしれませんので、注意が必要です。
 単純な売買契約の基本的な部分だけでも、いろいろと問題はあるものです。
 次回以降は、引き続き売買契約を取り上げ、まだテーマにしていない「代金」の問題、「解除」や「損害賠償」について説明することを予定しています。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
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