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震災関連の法律相談で多いものの一つに隣の塀が倒れた、あるいは家屋が傾いてきている、といった相隣関係に関する相談があります。
実は、この点は、非常に難しい問題を多く含むものです。
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まず、自分の敷地内に隣の物が侵入した場合には、その侵入した状況に対し、撤去を求めることができます。この手の質問は、隣の方と裁判をするということではなく、常識的に考えて隣にお願いできると思うけど、法律上間違っていたら困るので・・といった相談です。
隣の方と話しをされる際にも、法的に撤去をしていただくことが出来る前提で話し合いをしていただければと思います。
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次に、塀が倒れてきて、こちらに損害が発生した場合です。このような場合について、民法は工作物責任を定めています(717条)。基本的には、工作物の所有者は無過失責任といわれており、工作物に起因する損害が生じた場合には、その損害を賠償する必要があります。
ところが、大規模な自然災害であれば、いかにしっかりとした基準に基づいて塀を建てていたにも関わらず損害が発生した場合に、それを所有者の責任とするのはあまりにも酷です。この点、少し古い判例ですが、宮城県沖地震時における宅地造成工事に関する仙台地判平4・4・8等では、「震度5・震度6基準」と言われ、震度5には対応しなければならないが、震度6では不可抗力と考えられてきました。しかし、その後に阪神大震災、東北大震災と震災が続いている中で、建築関係の基準も水準が上がってきているところです。震度6が発生することは、予測できなければならなかったとの判断も裁判にてなされる可能性があります。
一応、この「震度5・震度6基準」によれば、今回の震災は震度7あるいは震度6強という震災でしたので、隣の塀の倒壊による損害について、工作物責任を追及することは困難となりそうです。
ただ、今回の地震の場合には、問題がさらに複雑になる場合があります。例えば、震度6で傾いた塀を修理せずに、翌日の震度4の余震で倒れてしまったという場合がありえます。通常の場合であれば、傾いた塀に何らの対策もしなかったことが過失とされ、損害賠償責任が生じることになるのでしょうが、たとえば、震度6の地震と震度4の地震が近接した時間になされていた場合には、一体の地震と捉え、免責となる考え方もありうると思いますし、私も、実態感覚としては、そのほうが近いのではないかと思います。この点は、最終的には今後の裁判で決せられることになりますので、私の見解と異なる結論となる可能性もありえますのでご了承ください。
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最後に車の件ですが、保険を使えるかどうかは保険契約の内容によることになります。残念ながら、多くの車両保険は震災による被害は免責の対象(保険が出ない)ようです。この点は、保険を契約した窓口でご確認いただければと思います。
そして、保険が出ない場合の隣家の方への請求ですが、上記のとおり、ケースバイケースとなりますし、震度6による倒壊の場合、従前の裁判例の基準だと請求が難しいとされる可能性も高そうです。
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隣地の方との紛争は、震災被害に加え、精神的にも難しいものがあると思います。多くは話し合いで解決をされるのでしょうが、お困りの際には、調停などの手続きが有効かと思いますので、お近くの弁護士等にご相談ください。
回答者 弁護士 小川 剛
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