弁護士の視点で

                     前へ<<               >>次へ
福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和元年11月号》
事業承継、M&AについてE取引先の承認

 前回、事業譲渡と株式譲渡による売買の二つのスキームを比べてみました。今回は、関連して2点補足をしたいと思います。
 前回、事業譲渡の場合には取引先の承認を要するという点をデメリットとしましたが、株式譲渡であれば、何も問題ないのでしょうか?
 また株式譲渡と事業場とでは、従業員の扱いについて、

1 取引先の扱い
  株式譲渡では、株主が変更になるだけであり、そのままの法人が存続するので、個別の契約について、取引先との契約関係は存続されることが前提となります。
  一方、事業譲渡では、取引先との契約は新たな会社で再契約をすることが原則です。
  ところが、契約の相手としては、株式譲渡だからといって、経営陣がそのままであっても契約を維持したくない場合もありえます。
  例えば、株主がライバル企業に変更になった場合、株主も代表者もAさんなので信頼して店舗を貸していたが、いつの間にか株主がBさんになっていた場合など、契約の当事者を重視してなされた契約であれば、取引先の株主の変更は許容できない場合があります。
  そこで、取引当事者を重要視する契約では、「事業譲渡に限らず株式譲渡等により、営業主が実質的に変更になった場合」等を契約終了理由としている場合があります。
  このため、取引基本契約における当事者に関する取り決めを確認することが必要ですし、主たる取引先にはあらかじめ同意書を得るということが考えられます。
  こういった点は、法務デューデリジェンス(法務DD)にて明らかにしていく必要があります。
  法務DDについては別の機会に説明を致しますが、基本合意の後に実施することがほとんどですが、M&Aの前提として不可欠な取引先であれば、その取引継続に支障が無いことを十分に確認しておかなければなりません。

2 労働契約
  次に労働契約についてはどのようになるのでしょうか?
  まず、株式譲渡では、労働契約に変更は生じないのが原則です。一方、事業譲渡の場合には、必ずしもそうとは限りません。
  事業を売却するに際し、法形式的には、売主での勤務を終了し(退職もしくは解雇)、新たに買手での勤務を開始する(採用)ということになります。
  このため、事業譲渡では全職員の雇用が維持されない場合もありえます。また、労働条件が維持されるとも限りません。
 むしろ、M&Aを行なう際に、職員を全員引き継ぐことが出来ない場合に株式譲渡によることを断 念し、事業譲渡とする場合も見受けられるところです。もっとも、事業譲渡だからといって、何でも無制限に解雇できるということでもありません。
 なお、実際には、M&Aによって、雇用条件が切り下げられるというよりは、より体力のある会社が事業を購入する例等、労働条件は向上している例も多いと思われます。

 労務の問題は多くの論点や注意点を含みますので、別の機会に改めて説明を致します。

                                        以上

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233

                     前へ<<               >>次へ
弁護士の視点でリストに戻る