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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和4年4月号》
M&Aについて 法務DDの事例のご紹介@−2 食品製造業の事例

前回、具体的な経験をもとに、例をご紹介させていただきました。食品製造業のDDについて、その後編として説明をさせていただきます。

食品製造業のDD(前回の続き)
1 労務DDの実施
  労務DDは雇用契約書、規程、タイムカード、賃金台帳といった書類を全て確認することになります。
  確認をしてみると、様々な問題が確認できました。
(1)退職金の慣例
  当初の報告では、退職金制度無しということでした。ところが、ヒヤリングを進めてみると、過去に景気が良かったという事情もあり、退職金規程も無い中で、退職従業員には数十万円から300万円程度の退職金を支給していました。
  しかも、多くの従業員はそれを認識しており、従業員はいくらか退職金を受領できることを期待している様子でした。
  法的に各従業員が退職金請求権を有しているのか、裁判を起こされた際に退職金の支払い義務が生じるのかは、極めて微妙な印象です。退職金の額は社長が独断で決めており、その金額も根拠は不明確でした。おそらく退職金制度に対する従業員の期待は十分に認められるところであり、これまでの最低額である数十万円は裁判所が認めることになると思われます。
  買収側では、このような曖昧な状態は最も困ることになります。退職金規程が存在し、それに応じた積立額、積立不足額がはっきりすれば、それを会社評価に反映させることになります。
  今回も、退職金は法的には数十万円と計上することもできましたが、買手の立場からすると、従業員にいきなり退職金を値切るということは難しいところです。従業員が離れてしまっては意味がありません。そこで、退職金を満額準備することは事業承継に必要と判断し、想定される最高額をコストとして計上しました。
(2)有給休暇の未消化
有給休暇が全く消化されていないようで、今後、有給休暇が取得された場合、一定の人員増を要する、あるいは生産性が低下する可能性がありました。この点を注記とすることに加えて、ここまで取得できていない有給休暇について、何らかの請求がなされるも、実際に休暇を与えることが難しい場合に備え、1名あたり5日の有給休暇を計算し、コスト計上をしました。
(3)未払い賃金
   対象会社では残業は払っている様子でしたが、よく聞くと、早朝の早出がなされており、これを定額の手当として処理していました。実際の労働時間について残業代を支払う場合には、手当てでは不足するので、差額を計算の上、コスト計上をしています。
2 全体評価
   前回説明のとおり株式に関するコスト等も加えて、上記のコストを算定し、DDの結果、買収額を下げることが相当としています。この評価は売買価格に反映され、最終的に売手、買手が納得の上、取引に至っております。 以上

次回は、また別の事案をご案内いたします。

本説明は本原稿掲載日(令和4年3月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
HP  http://t-o-law.com/
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