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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和4年7月号》
M&Aについて M&A事例のご紹介

今回も、私が関与した事例として、ホテルのM&Aについて、説明をさせていただきます。

1 概要
 先代からの温泉旅館(高級旅館の次のランクの旅館)を経営していたA社は、資金繰りの不安を感じているところで、コロナ禍に突入してしまいました。
インバウンドでにぎわったホテル業界ですが、韓国との関係が悪化したところで需要の冷え込みがあり、さらに、コロナ禍により多くのホテルが廃業等を迫られるに至りました。
コロナ禍を一過性のものとみるのか、資金があればコロナ禍でもホテルを買うニーズは存在し、この売買に関与させていただきました。

2 コロナ直撃企業のDD
 飲食店もそうですが、コロナ直撃の業種では助成金、借り入れが大幅に増加しています。
 借入については、借り入れ条件、返済条件等を確認するのはもちろんですが、助成金は会社評価に大きな影響を与えることがあります。
 例えば、飲食店であれば、時短営業の協力金が相当額支給されました。この支給がいつの分まで行われているのか、いつの分まで入金されているのかは確認する必要があります。
コロナ禍であり飲食店を無償で譲渡する話があったのですが、DDをしてみると1000万円を超える協力金の入金予定があり、これを売主が渡さないという話をしはじめた結果、破談した例もありました。
大規模な事業者ですと、助成金、補助金、協力金の額はかなりの額となり、資産として評価をすることになりますし、キャッシュフローを直撃する可能性があります。このような助成金等を売主、買主のいずれが取得するのか明らかにしておくこと、また、その入金が得られなかった場合には、どのように対応するのかという点は明確に合意をする必要があります。

3 労務面
 どの会社のDDでもそうですが、労務面は最も重視される点です。ホテル等においても、代替不能な従業員、例えば料理人がM&A後に従業員が退職した場合には、その意味がなくなってしまいます。コアになる従業員について、継続勤務がなされる見込みなのか、といった点は確認が必要です。
 また、ホテル等は勤務時間が長時間となっている例も多く、未払い残業代の存在等は要確認事項です。

4 WEB関連
  現在、多くの宿泊予約はオンラインで行われています。自社サイトでの集客、ネット評価、オンライトラベルエージェントとの契約等は要確認事項です。
集客力のあるサイトでの評価が高いとなると、それだけで優位性がありますので、会社評価のプラス材料となります。

5 その他
温泉旅館ですので、お湯の権利等も確認が必要です。なかなかなじみが無いと思いますが、温泉の権利は協同組合が持っており、事業譲渡の場合、権利の承継に協同組合の許可を要するといった場合もあります。許可の手続きは要確認です。

 なお、当事務所で上記事件のDDを実施した場合の費用は100万円程度となります。

次回は、また別の事案をご案内いたします。

本説明は本原稿掲載日(令和4年6月))時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
HP  http://t-o-law.com/
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