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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和5年9月号》
M&Aについて 医療法人の売買事例について

今回は、最近、当事務所でご相談があった医療法人の売買事例について、少しご報告させていただきます。医療法人の購入については、少しビジネスとして難しい面があり注意が必要な印象です。

1 医療法人の後継者不足とM&Aのニーズ
  医療法人の売買が多いそうです。後継者不足によりM&Aをする必要がある企業が多いということですが、医療法人は後継者が医師でなければなりません。通常の企業よりも後継者不足が深刻なことは容易に想像できます。
このため医療法人の後継者不足を解消するためのM&Aはニーズが高まっているようです。典型的には、引退を迎える世代の院長(理事長)が医療法人の経営を退く場面です。最近はコロナ禍もあって、従業員を10名程度抱えているような病院だと負債も増えており、どこかに引き継いでほしいということのようです。

2 非医療法人による買収について
医療法人ではない企業等が医療法人を買収する例も増えているようです。この場合には、今後の医療体制の構築、資金繰りについて十分に検討をする必要があります。
まず、医師、理事長の確保ができるのか、医療体制を構築できるのかという点が極めて重要です。
医療は医師がいなければ始まりません。そして、医師の特色として、とにかく人材を確保することが極めて難しいです。考えてみれば当然ですが、医師を確保するためには高額な報酬が必要になります。また、雇われ院長の場合には、いつまで院長を続けてくれるのかもわかりません。医療に関する最終責任を医師が負うことを考えれば当然ですが、医師と方針があわなければ、その意思は退職するかもしれません。経営者と方針が合えばいいのですが、経営面まで考慮してくれるとは限りません。
このように経営における最重要判断等について、買収側で十分にコントロールできないところに医療法人の経営の難しさがあります。
また、一定の水準に医療法人がなれば借入をするなどにより設備投資をすることになりますが、金融機関は経営面だけではなく、医師を見て融資を判断することになります。場合によっては、当該医師に個人保証を求めることもありえます。そうすると、買収側で資金を提供する必要が生じます。
また、医療法人を買収し、利益を得た場合に、どのようにして買収側に資金を還元させるかという問題があります。一つは理事として理事報酬を得るということが考えられます。あるいは、不動産を購入して賃料を得る、ということが考えられますが、配当といった親会社還元は難しいところです。このあたりの収支の見通しを考えることは必須ですし、収支があわなければ、最悪、病院を締めることになり、地域への影響まで生じることになります。

もし医療法人の購入を検討されているのであれば、このあたりを十分にご検討いただき、専門家等にご相談をされることをお勧めいたします。

                                                 以上    

本説明は本原稿掲載日(令和5年8月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
HP  http://t-o-law.com/
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