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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和5年10月号》
M&Aとストライキについて

私の業務として、M&Aに関心をもって取り組みながらも、もう一つ、労務関係の対応は力を入れて対応させていただいております。
先日、M&Aに関連して百貨店の労組がストライキをしたというニュースを見ました。ストライキ自体が珍しいこと、その背景にM&Aがあるということで注目を集めたところです。私が知るのはニュースレベルであって、当事者、関係者の実情はわかりませんが、関連して少し私見を述べたいと思います。なお、私見であって、法的な見解とは限りません。

1 M&Aにおける従業員の処遇
まず、前提として、会社が赤字の事業を継続する義務はありません。会社は事業を売却する、部門を売却する自由はあると考えます。今回は株式を他社に売却するのみです。
株主が変更されるときに従業員については、雇用も労働契約上の地位も維持されるのが原則です。
売主の親会社に何か要求するとしても、経営方針まで求める、百貨店事業の規模の維持を求めることは困難に思われます。経営陣が変更になり、新たな経営陣に求めるべきことのように思われます。
売主として労使交渉に応じる必要はありますが、買主の事業計画、経営方針まで拘束することはできないのですから、雇用維持を買主企業に求めることしかできないと思われます。今回の西武の事案でも、売主たる親会社は、「雇用維持に協力する」とのコメントしかなされていないと思われます。親会社が変更になった百貨店の勤務が嫌であれば、セブン側で雇用を引き受けるという趣旨だと思います。
売り側でできることは、これが限界ではないでしょうか。

2 ストライキについて
前項のように考えると、株式の売買であるM&Aを従業員が止めることはできず、売主企業ができることも限られています。このような中でストライキを行っても、M&Aは実行されるでしょう。おそらく裁判上の仮処分などが認められればM&Aは停止するかもしれませんが、認められるかは疑問です。新たな経営者が雇用契約に手をつけた場合に、新たな経営者に対し法的手続きを執るべきとなるでしょう。M&Aに反対というストライキが認められることには疑問があります。
結局、今回のストライキでは、買主側企業にやっかいな従業員がいるということを知らしめる効果しかなく、労組もそれを意図したのではないかと思います。買収側企業がリストラをしようとすると、ストライキをするような労働組合がいるということを示し、買主側が忌避反応を示し、買収を断念することを実質的な目的としているように思われます。

3 今後の買収側の企業運営について
いずれにせよ、買収側は丁寧な説明により、今後の百貨店経営、労使関係の構築をしなければなりません。買収側は今後、百貨店事業の縮小をする可能性があります。このときに、報道のとおりであれば家電量販店への業態変更となり、同社への出向等もありえるかもしれません(個人的には家電量販店の中で、ヨドバシカメラが一番好きですが)。賃金等は維持されるでしょうが、百貨店での勤務にこだわるのであれば、転職するしかないかもしれません。出向反対等のストライキがなされるかもしれませんが、それでも出向命令は出されるでしょう。ドライなようですが、大前提として、この百貨店事業は赤字であって、そのような赤字事業の維持を企業に強いることは不可能ですし、百貨店で勤務する権利というのは実現が難しいと考えます。

4 そのほか
今回のM&Aでは、区長が反対という立場を示していました。行政は資金を出したのであれば、声を出せるでしょうが、家電量販店が入ることで文化の街が・・という論調はいただけない、すべきではない、というのが私の見解です。

                                                 以上    

本説明は本原稿掲載日(令和5年9月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
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