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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和5年11月号》
M&A 買わない判断も重要です 法的問題は?

先日、美容系のサロン、クリニックをM&Aしようとしていましたが、最終的に見送りの判断をしたという事例を見受けました。
今回は、見送りの判断に至った経緯を紹介させていただき、また、基本合意後の最終合意前の見送りの判断について、何等かの責任が生じるのか検討したいと思います。なお、見解は私見であり、事例によって結論が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

  1 美容系のサロン、クリニックにおける注意点
  美容系のサロン、クリニックについては、以下の特徴があります。
・前払いの顧客
通常の医院等と異なり、前払いで契約をしている顧客が多数存在することがあります。例えば、美容コースで1回3万円という契約の方もいれば、10回20万円の契約をしているが、そのほとんどが未消化となっている方もいます。
この前払いの顧客についての売上計上は、契約時点でなされている一方で、実際にはその後にサービス提供をすることになりますが、そのサービスについての債務は帳簿上計上されていないということがありえます。この債務の計上方法については、どうも定まっていないようです。場合によっては、未実施の施術分については、一つ一つ顧客別に確認する必要があるという場合もありえます。
近時、脱毛サロン等の倒産の報道がありましたが、前払いで契約した顧客が多数となり、未実施のサービスが大量に滞留している結果、新規の売上が計上できなくなるので、このような破綻となります。
この未実施の施術の把握は前払い契約となっている場合には、十分な確認、表明保証が必須となります。 ・顧客クレーム
  美容系等では一定の顧客クレームが生じる可能性があります。このため、施術が譲渡日前の場合には売主が負担するといった合意をすることが多いのですが、施術から随分と経過してクレームとなる可能性もあり、その時には売主は無資力という可能性もあります。

2 建設工事でも同じことが
前払いが生じる例としては、建設会社等も同様のことが生じ得ます。仕掛工事について、前受け金が存在する場合です。この場合にも、上記美容系と同じ問題があります。
建設工事の場合には、仕掛工事、出来高はある程度明らかにされるでしょうが、明確に債務として計上されていない場合がありえます。
また、建設工事に関する不具合、クレームはより時間を経過して顕在化することも多く、建設会社のM&Aでは十分に注意が必要です。

3 DDの結果、最終契約に合意しないことは違法なのか
 一般的にDDを実施し、その結果として金額や条件の修正を行うのみならず、契約を取りやめることも、基本的には契約違反にはならないとされています。ただし、基本契約書において、着手金は返金しないとされている、あるいは違約金の定めがある場合には、それによることになります。
 上記美容系のM&Aの場合にも最終的には役務残が多く、役務残の消化数、人員体制等を考慮すると、収支見通しが厳しいとの判断により断念しています。

                                                 以上    

本説明は本原稿掲載日(令和5年10月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
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