不動産鑑定士の仕事

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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和3年7月号》
鑑定の流れ

1. はじめに
今回は、鑑定を依頼した場合、依頼から納品までどのような流れになるのかをご紹介します。鑑定の流れを知って頂ければ、鑑定評価書の納品には、意外と時間が掛かるものと思われるかもしれません。

2.鑑定の流れ
@依頼の受付
依頼者から、評価の対象となる不動産の所在、依頼目的、評価の条件等を伺います。これを受けて、鑑定報酬の見積り額、作業スケジュールをご提示し、依頼者から正式に依頼を受けると評価作業が開始されます。
実務上は、受付の際に「価格等調査業務依頼書兼承諾書」及び「業務の目的と範囲等の確定に係る確認書」を取り交わします。なお、不動産鑑定士が依頼者と結ぶ契約の法的性質は、請負契約ではなく準委任契約と解されています。

A評価に必要な資料のご提示
依頼を受け付けると、鑑定に必要な資料をご提示します。登記事項証明書のような公表資料は不動産鑑定士側で取得することも可能ですが、土地実測図、建物設計図書、レントロール、賃貸契約書、固定資産税の課税証明書等のような資料は依頼者側でご用意頂くことになります。
更地の評価の場合、必要な資料は相対的に少ないですが、収益物件の評価は、賃料収入や経費が評価額に直結しますので、レントロール、賃貸契約書、収支表等の多数の資料が必要となります。

B資料の収集
不動産鑑定士が収集する資料は、以下にように分類されます。

  評価資料備考
@確認資料登記事項証明書、公図、実測図等の物的及び権利の確認に必要な資料
A要因資料GDPや株価等の一般的要因に係る資料、マーケットの需給動向等の地域要因に係る資料及びレントロール等の個別的要因に係る資料
B事例資料取引事例、賃貸事例、利回り事例等の資料

C現地調査・役所調査
対象不動産の確定や受領した資料と現況との相違等を確認するために現地調査を行います。現地にて対象地の間口・奥行、接面する道路の幅員、隣接地との境界、対象建物の入居状況・増築の有無等を調査します。管理者の立ち合いが可能な場合は、対象不動産の状況についてヒアリングを行います。
また、公法上の規制を確認するため、市役所等にて役所調査を行います。

D評価額の査定
収集した資料に基づき最有効使用を判定し、鑑定評価の手法を適用して評価額を査定します。例えば、賃貸マンションが最有効使用と判定された場合、原価法、収益還元法(直接還元法・DCF法)等を適用して、評価額を査定します。
評価額は数式を用いて査定しますが、不動産鑑定士協会から数式のひな形等が与えられている訳では無いため、各事務所は用途に応じた試算シートを独自に用意します。

E経過報告
評価額が査定されると、依頼者へ中間報告を行うケースが有ります。中間報告までの期間は、案件の難易度により異なりますが、受付から2〜3週間程度が多いようです。

F鑑定評価書の作成
鑑定評価書は、「不動産鑑定評価基準」に則って作成します。鑑定評価書のひな形が不動産鑑定士協会から与えられている訳ではありませんので、各事務所は独自のノウハウで鑑定評価書を作成しなければなりません。
鑑定評価書の作成期間は、案件の難易度により異なりますが、評価額の査定から2〜3週間程度が多いと思います。

G納品・鑑定評価書の内容説明
依頼者へ鑑定評価書を納品し、鑑定評価書の内容を説明することにより、業務が完了します。

3.最後に
今月は鑑定の流れを説明しましたが、次回は評価の手法を説明したいと思います。

回答者 不動産鑑定士 佐々木 哲
佐々木不動産鑑定事務所
不動産鑑定士 佐々木 哲
〒810-0004 福岡市中央区渡辺通2-6-20 ラクレイス薬院203
TEL092-791-1873 FAX092-791-1893
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