不動産鑑定士の仕事

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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和4年12月号》
賃料評価の基礎知識G

1.1. はじめに
新規賃料の鑑定評価の手法には、「積算法」、「賃貸事例比較法」、「収益分析法」などがありますが、今回は、「賃貸事例比較法」を説明します。

2.賃貸事例比較法の目的
賃貸事例比較法は、類似建物の賃貸事例と比較して比準賃料を求める手法で、賃貸マーケットベースの賃料を求めるものです。
具体的な計算方法は、以下の通りです。


積算賃料

3.契約内容の類似性
賃貸事例比較法は「類似建物との比較」を行う手法ですが、賃貸借契約の内容が類似する事例を採用する必要があります。

(1)賃貸形式
賃貸形式には、一棟貸し、部分貸しなどの賃貸範囲に係るものや、普通借家契約、定期借家契約などの契約内容に係る分類があります。

(2)賃貸面積
マンションの賃貸面積は、壁芯面積と内法面積があります。壁芯面積の場合、実際には使えない壁や柱の一部も含まれているので、どの面積を採用しているのかを確認する必要が有ります。

(3)契約期間・経過期間・残存期間
テナントが希望する仕様で建物を建設するBTS(Build To Suit)型の物流施設や店舗は、投資回収の観点から10年を超える長期契約となる場合が多いです。

(4)一時金の授受に基づく賃料内容
鑑定評価で求める賃料は、実質賃料であるため、賃貸事例についても、一時金の有無を確認し、一時金の金額を反映する必要があります。

(5)修理・現状変更に関する事項
修繕費の負担の取り決めによっては、実質賃料に影響を与える可能性があるので、修繕費の契約内容に留意する必要があります。

(6)賃貸借に供される範囲及びその使用方法
賃貸借に供される範囲が、共用部を含むグロス面積なのか専有部分のみのネット面積なのかを賃貸借契約書や設計図書を参考に判別する必要があります。両者を混同すると間違った比準賃料が査定されるので、賃貸借の範囲の確認は重要です。

4.賃貸事例比較法が有効な場合
賃貸事例比較法は、オフィス賃料やマンションの家賃等のような相場が形成されている用途の不動産に有効です。他方、シティホテルなどの事業用不動産の賃料は、個別の収益に基づく負担可能賃料としての性格を有するため、収益分析法等の他の手法による検証が必要になります。

5.最後に
次回も新規賃料の評価手法について説明します。

回答者 不動産鑑定士 佐々木 哲
佐々木不動産鑑定事務所
不動産鑑定士 佐々木 哲
〒810-0004 福岡市中央区渡辺通2-6-20 ラクレイス薬院203
TEL092-791-1873 FAX092-791-1893
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