1. はじめに
さまざまな物の値段が上昇するなか、建築工事費は値上がりを続けています。今回は、建築工事費の上昇が継続賃料に与える影響について考えます。
2.建築工事費が高騰する理由
バブル崩壊以降の経済不況や公共工事の削減などを受けて、低迷していた建設業界ですが、東日本大震災の復興需要を契機として建設需要が急増し、その後、東京オリンピックの開催なども有り、建築工事費が上昇しました。さらに、コロナ禍を経て、世界的な資材不足や労務費の上昇などにより上昇率が高まりました。また、日本は、建設資材の多くを輸入に依存しているため、足元で進行する円安により建築工事費が押し上げられています。
以上のような要因で建築工事費は上昇しており、何れ要因も短期的に改善するのが困難と思われ、今後、建築需要が急減するような事態が起きなければ、しばらくの間、建築工事費は高止まりの状態で推移すると予測されます。
3.継続賃料に与える影響
建築工事費が上昇すれば、賃料も上がるというのは感覚的には理解できますが、継続賃料の各手法を適用する中で具体的にどのような項目に影響が生じるのかを見てみましょう。
@差額配分法
差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料と実際実質賃料との間に発生している差額について、賃貸人等に帰属する部分を適切に反映した額を実際実質賃料に加減して賃料を求める方法です。
建築工事費の上昇は、建物の再調達原価の上昇を意味しますので、「対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料」が相対的に高く求められることにより、試算賃料の上昇に繋がります。
A利回り法
利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して求める手法です。
建物の再調達原価が上昇すると「基礎価格」が上昇します。また、建築工事費の上昇は維持管理費の上昇に繋がるので、「必要諸経費等」も高くなります。
Bスライド法
スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法です。
スライド法で採用する「変動率」には土地・建物価格の変動を織り込む必要がありますので、建物価格の上昇は「変動率」の上昇に繋がり、賃料が高くなります。また、「必要諸経費等」についても前記利回り法と同じく、賃料が上昇する要素になります。
4.最後に
以上の通り、建築工事費の上昇は、査定の各段階に影響を及ぼし、継続賃料を高くする方向に作用する場合が多いと考えられます。また、次回も継続賃料を説明します。
回答者 不動産鑑定士 佐々木 哲
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