今月号からしばらく私が手掛けた障害年金の事例を紹介します。
今回は透析を取り上げます。透析治療までに至る原因傷病として、糖尿病性腎症、慢性腎炎や腎硬化症が挙げられます。透析を行っているという状態そのものは、日本年金機構の『障害認定基準』で2級と決まっています。透析を行っているのに、認められない原因の一番は、初診日の証明である「受診状況等証明書」が取れないことではないでしょうか。
一般的には、透析に至るようになるまで病院に通院し始めて5年〜10年、どうかしたら20年以上もかかります。ですから、いざ障害年金申請を試みようとした時、病院が廃院となっていたり、カルテが廃棄してあったりして「受診状況等証明書」が取れない事が非常に多いのです。
その初診の証明書の代わりになる資料(例えば、診察券や領収書)が複数あれば、認められることもありますが、なかなか揃えることができません。すると、審査ができないという意味の却下処分が下されるのです。
《受診状況等証明書が取れずに断念していた案件のやり直し》
10年ほど前に請求者本人が、透析を始めたので受給したいと年金事務所で相談しました。20歳代前半の若者の時に、頭痛が続くので受診したのですが、医師から血液検査で糖尿病の気があると告げられたそうです。
年金事務所窓口の職員は細かく、初めて病院に行った時のことを尋ねます。請求者は意味もわからず当時の事を年金事務所職員に伝えました。すると職員は、その病院が初診と思われるので「受診状況等証明書」を取得するように指示したのです。すでに30年位経過しており、当時の病院は廃院となっています。治療や服薬したわけでもないと訴えましたが、あくまで証明書の提出か、それに代わる書類が必要と言って、耳を貸してくれません。結局、証明書類を集めることができず、年金機構本部から書類が戻り、断念せざるを得なかったという経緯がありました。
今回、当時の資料がなく、本人の記憶も定かでない為、一から取り寄せました。平成20年位が本来の治療を開始した病院なのですが、ここもカルテの保存がありません。糖尿の気があるよと言われた時も、実際治療を開始したときも、共に厚生年金加入中で、1月も保険料を払っていない月はないのです。現在は10年前と比べて、やや初診日を証明する条件が緩和されており、『年金保険料の未納がなければ、障害基礎年金は本人の申し立てた日を初診日と認める』となっています。しかし、障害厚生年金の審査は非常に厳しく、現在揃えた資料では、障害厚生年金2級と認められない可能性もあるのです。今回の請求方法は事後重症請求といって、徐々に障害状態が悪くなり、現在の障害状態が2級相当ですという請求方法です。この事後重症請求は65歳までしかできません。請求者はもうすぐ65歳になる為、障害基礎年金であっても認めてくれるのであれば、致し方ないかなと考えています。
回答者 特定社会保険労務士 堀江 玲子
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