おもしろ知財ツアー

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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和2年7月号》
おもしろ知財ツアー43

 弁理士の高松宏行です。新型コロナウイルスの影響を受け、新常態への適応が求められています。今後は四季を問わず衛生マスクを携帯する時代になるかもしれません。このような状況下で、衛生マスクやフェイスシールドに関する特許出願が増加しているという話を聞きました。そこで今回は、衛生マスクと特許に関する話をしたいと思います。
通常の衛生マスクを特許的にシンプルに表現すると、例えば次のようになります。

「マスク本体と、マスク本体に接続される耳掛け部と、を備えた衛生マスク。」

マスク本体は口(唇)およびその周辺を覆うシート状の部分、耳掛け部は伸縮性のある紐状の部分です。なお、表現は弁理士によって様々です。
上記表現は公知の衛生マスクを表したに過ぎないので、これでは特許を取れません。従来の衛生マスクが有していた課題を見つけ、その課題をどのような構成で解決したのかを「特許請求の範囲」で表現する必要があります(進歩性等の要件をクリアすることも当然ながら必要です)。
例えば、従来の衛生マスクはマスク本体が1枚の布地でできていたため、ウイルスがマスク本体を通過して口腔へ容易に侵入するという課題があり、この課題を解決するため、マスク本体を複数の層で構成したアイデアを思い付いたとします。かかる場合の特許請求の範囲は、例えば次のようになります。

「マスク本体と、前記マスク本体に接続される耳掛け部を備えた衛生マスクであって、
 前記マスク本体は2以上のシートを積層して構成される衛生マスク。」

 2020年現在では、上記の衛生マスクは公知であるため特許にはなりませんが、2以上のシートでマスク本体を構成するという発想がなかった時代に特許出願されていたら、特許になっていたかもしれません(実際に特許になっていたかもしれません)。
ちなみに、上記した特許請求の範囲はもっと広く表現できる余地があります。上記発明のポイントはマスク本体であって、耳掛け部が浮いた状態となっています。というのも将来、耳に掛けずに着用できる衛生マスクが登場した場合、その衛生マスクを複数層のシートで構成しても、文言上は特許請求の範囲から外れるので権利侵害にならない可能性があります(「均等論」による議論の余地はありますが、ここでは説明を省略します)。
したがって、特許請求の範囲を次のような表現すると、特許を取得した場合の権利範囲はかなり広くなりそうです。

「2以上のシートを積層して構成されるマスク本体を有する衛生マスク。」

特許請求の範囲の書き方は、弁理士にとって永遠のテーマであり、弁理士によって考え方は様々です。特許取得を検討される際は、複数の特許事務所にご相談されるのをお勧めします。

衛生マスクが抱える課題はいくつもあります。「夏場は暑い」、「息苦しい」、「臭くなる」、「口腔へのウイルスの侵入を排除しきれない」、「耳に掛け続けていると痛くなる」、「散髪する際、耳に掛ける部分が邪魔になる」、「大量のゴミ発生による環境破壊問題」等々。

このような課題を解決するため、画期的な衛生マスクを発明されてはいかがでしょうか。

 今月は以上です。

回答者 弁理士 高松 宏行
高松特許事務所
弁理士 高松 宏行
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-4-30 西鉄赤坂ビル7F
電話092-711-1707 FAX 092-711-0946
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