【初めに】
皆様、こんにちは。行政書士の和田でございます。前回に引き続き「成年後見人の実務」についてお話させていただきます。
成年後見制度を利用していく中で、成年後見人の仕事として、この場合はどうしたらいいのか、と悩むことが多々あります。そうった場面の事例を挙げながら今回も説明させていただきます。
【1.本人が所有する不動産の売却についてどうしたらいいか?】
まず大前提として、本人の不動産を売却等する時には、家庭裁判所の許可を得る必要があります。これはなぜかと言うと、成年後見制度というのは「本人の財産を守る」ということが一つの大きな趣旨でもありますので、不当な財産の処分を防ぐためにも家庭裁判所の許可が必要となっております。
やはりご自宅や土地といった不動産は、本人や親族の思い入れなどもありますので、親族がいれば親族と、独居の場合は、本人に関わっている介護職等(ケアマネ・民生委員等)の方々と、一緒になって十分検討した上で売却等の処分を決めた方がいいです。それでもやはり、介護施設への入所費用が必要あるいは医療費等の支払いで必要、その他親族による後見活動のため引っ越しした方がいいなど理由で本人が所有する不動産の売却等をすすめていきます。ただし、決めるのは家庭裁判所ですので、希望がそのままとおるとは限りません。後は、売却せずに「賃貸」に出すなどの方法(それによって費用等を捻出)もありますので、いきなり売却と考えずに色々な方法をまずは検討しましょう。
いざ不動産を売却となった時に、注意すべきことは自宅の中にもあります。それは家財道具等です。不動産自体には注意するのですが、その他の物はどうしても忘れがちですので、特に自宅の中の大きなものや価値のありそうなものは、写真などに撮っておいて、親族や福祉関係者に後で説明しやすいようにしておいて下さい。勝手に自分1人で判断せず、親族がいればその都度相談して、処分あるいは売却した時は書面にして保存(売却・処分同意書等)しておけば後のリスク回避につながります。特に位牌や仏壇などの取扱いは慎重にして下さい。後になってあれがない、とトラブルになることが意外と多いので気を付けて下さい。(多くは親族からの申し出ですが…)
【2.本人が相続人の1人である遺産分割調停に少し遠方の裁判所まで行きました。その時の交通費や日当を本人の財産から受領してもいいのでしょうか?】
本人の利益(財産)を守るという意味からも、相続に関わる訴訟あるいは調停等に本人の代わりに参加するのも、後見人の大事な仕事の一つです。ですので、民法861条2項で「後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人(本人)の財産の中から支弁する」とあります。この観点からは、全ての費用を本人の財産から受領していいように思えますが、現状は家庭裁判所の判断事項になります。ですので、後見人が勝手に本人の財産から受領してはいけないことになっております。
ただし、今回の疑問は後見事務を行う上での「実費」に相当する部分が「交通費」になりますので、領収書があればそれを保存等(なければ正規の交通費を調べて後見活動報告書等へ転記しておく)すれば、その都度、本人の財産から受領して結構です。ただし、「日当」に関しては、後見人の判断で受領することは出来ませんので、こちらは一年ごとに行う「報酬付与の審判の申立て」で事情を説明して、その中の報酬として反映するように求めるのがいいかと思われます。ただし、これも本人の財産との兼ね合い等を総合的に判断して決めるのは家庭裁判所ですので、希望がそのままとおるとは限りません。ご注意下さい。
【おわりに】
三回にわたって、成年後見人の判断が悩む事例を挙げてご説明させていただきました。後見人の活動は、一人ですべて行うより、身近に気軽なことでも相談出来る人あるいは団体等を見つけてチームとなって、本人を支えていくのがいいと思いますので、私、行政書士も含め、専門職もそのサポート出来る一つと思っていただければ幸いです。
回答者 行政書士 和田 好史
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