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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成26年6月号》
解雇やむなし
  質 問

【質問者】
 製造業(正社員 20 名、パート 20 名)

【質問内容】
 当社は、製造業を営む株式会社です。製造業ですから、チームワークが大切ですし、当社としても、協調性やコミュニケーションは非常に大切にしています。ところが、1人だけ問題社員が存在し、非常に困っています。
 問題社員は、既に勤続 10 年になりますが、とにかく協調性がなく、他の従業員との挨拶もきちんとしません。他の従業員全員から嫌われています。
 この問題社員の最も問題点は、解雇が認められる程度の非違行為があるわけでもなく、日頃の業務に関して注意指導をすると、形式的には「わかりました」と返事することです。 また、 既に 45 歳で、 退職しても再就職が難しそうだという問題もあります。
 解雇したいのですが、特に非違行為もないから退職勧奨をしました。しかし、問題社員は退職勧奨を拒否した上、 「もし解雇されたら、絶対に訴えます」と言いました。
 先日、他の従業員全員の連署による申入れがありました。内容は、この問題社員の即時解雇の要請です。解雇しないのなら、数名の従業員がメンタルヘルスで休職する可能性があるとのことです・・・
 会社としても、本気で解雇したいと願っています。しかし、解雇したら訴えられて敗訴するのは明らかです。私はどうしたらよいのでしょうか。

  回 答

 【異常な解雇規制の非常識】
 わが国の裁判は、解雇に関する訴訟について、会社側にとって非情、理不尽な判決となることが多いようです。事実、一般の人間の感覚として、解雇は当然と思えるような事案であっても、なかなか解雇が認められません。ここまで労働者に対して過保護にすることが、果たして国家全体の社会的利益につながっているかと考えると、断じて否定したいと考えるところです。
 例えば、 貴社のケースのように、 他の 40 名近い労働者全員が嫌な思いをしていても、 1人の労働者保護のため、我慢を強いられるのです。法は、労働者保護という耳あたりの良い言葉をもって個人を保護するだけで、周囲の労働者や会社の迷惑に対しては知らんぷりなのです。

 【今後の対応の選択肢】
 詳細が分かりませんが、懲戒解雇できるような非違行為はないようです。解雇するとすれば、普通解雇になると思われます。普通解雇は、労働契約を継続しがたい事由があることが前提となります。貴社の場合、他の全従業員との信頼関係が修復しがたい程度に破壊されているようですので、解雇理由はあると考えられます。
 労働法自体は解雇を禁止していませんが、訴訟では裁判所が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」は、解雇を無効としてしまいます。
 問題社員は、解雇されたら訴えると言っています。しかし、解雇しなければ、他の全従業員との今後の関係に支障をきたしそうです。問題社員を改心させるか、他の従業員を説得するかという問題なのでしょうが、もう一つ選択肢があります。それは、悩まず解雇してしまうことです。

 【訴訟を恐れず、解雇しなければならないときがある】
 解雇したら、敗訴リスクを負います。しかし、裁判上の和解が成立するケースも非常に多い現実があります。和解成立にはある程度の金銭支払いが伴いますが、敗訴するよりも低い額となるのが一般的です。仮に敗訴しても、それまでの期間は問題社員は出勤しませんし、その後職場復帰するとも限りません。費用はかかりますが、その費用を支払ってでも解雇したいと考えるのであれば、解雇の選択は現実味を帯びてきます。最悪職場復帰したとしても、他の従業員達は少なくとも会社が対応しないことに問題があるとは考えないでしょう。一方で、信頼関係破綻が労働契約継続困難として、解雇が認められる可能性もゼロではありません。
 解雇の選択肢は、ある意味究極の選択です。しかし、現実社会には、裁判をおそれず解雇を決断しなければならないときもあると考えます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
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TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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