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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成29年10月号》
タイムカードのみの危険性
  質 問

【質問者】
 販売業(正社員 15 名)

【質問内容】
 当社は、販売業を営む株式会社です。正社員 15 名の内訳は、管理職 1 名、営業職 11名、事務職 3 名です。これまで、特に残業代も支給しない、いわゆるサービス残業常態だったのですが、退職した社員から労働基準監督署に申告され、遡及して支払わせられました。今後は、労働法に基づいてきちんと労働時間管理をして、残業代もきちんと支払っていきたいと考えているところです。
 労働時間管理を始めるに当たり、タイムカードを導入したいと考えています。しかし、ここで疑問が生じました。タイムカードは、社員が出社した時刻と退社した時刻が打刻されますが、この時間では本来の労働時間よりも長くなると思うのです。そこで、残業代を計算するにあたり、次のような取扱いにしたいと考えています。
 @出社した時刻と無関係に、朝は所定始業時刻から計算
 A終業時刻は、タイムカードの時刻を 30 分単位で切り捨て
 この取扱いを社員に話したところ、 「タイムカードを押したらすぐに仕事を始めているし、仕事が終わったら直ちにタイムカードを押しているから、タイムカードの時間のままが実態です。実態に応じて支払って下さい。 」と言われてしまいました。
 しかし、私は納得いきません。私は朝早く来るように命じていないのに、勝手に早く来ているだけだし、営業職の者は外回りから帰ってきた後はダラダラと談笑したりしながら残っているだけだというのが実態だからです。どうしたらいいでしょうか。

  回 答

 【労働契約と指揮命令権】
 貴社の所定労働時間を、仮に始業時刻 9 時、終業時刻 18 時だとして検討します。この所定労働時間は、労働契約という「契約」によって定められたものです。従って、労働者が勝手に朝早く出勤して「始業」することは、厳密にいえば契約違反に当たることになります。しかし、実際に出勤して仕事しているのであれば、原則として会社の指揮命令下に入った状態と評価されます。ここで重要なのが、会社がこの状態に対し、どのような対応をとるかということになります。
 仮に何も対応せず放置すれば、 「黙認」により労働時間であると評価される可能性が極めて高いといえます。指揮命令権が行使できるにもかかわらず、行使しなかったためです。逆に、早く出社してきても始業時刻まで始業しないよう再三注意指導を繰り返したのであれば、労働者の契約違反ということで、労働時間とは評価されない可能性が高くなるわけです。
 終業時刻前に「ダラダラ談笑」している時間についても同様です。何も対応しなければ原則として労働時間となってしまいます。

 【タイムカードのみの危険性】
 お話しによりますと、タイムカードだけを導入されようとしているようです。実は、これは非常に危険だと言えます。タイムカードは、ご指摘の通り「出社時刻・退社時刻」が記録されますが、労働時間の算定に必要な「始業時刻・終業時刻」を示すものではないためです。
 タイムカードしか記録がない場合、出社時刻から始業時刻までの間の残業代請求等を受けた場合、この時間帯に就業させない措置をとっていたことを会社が立証しなければならなくなります。できない場合、タイムカードの出社時刻から労働時間と認定されてしまう可能性が高いわけです。
 一般に、労働時間の自己申告書を書かせるケースが多いです。貴社の場合もこのような対応をし、内容をよく確認して疑義があればその都度指導されるような対応をするべきだと考えます。

 【30分切り捨て】
 労働時間は、1 分単位とされています。結論として、30 分単位での切り捨ては認められません。かなり以前は多くの事業所が 30 分単位で切り捨てていましたが、これは誤解に基づくものです。日々の労働時間(1 分単位)を 1 カ月分集計し、その合計時間数について端数の 30 分以上を 1 時間に切り上げ、30 分未満を切り捨てる取扱いが認められています。あくまでも 1 カ月の合計時間数についてのみ認められているのであって、日々の時間数には適用できません。
 終業時刻も本来は定時までが「契約」です。定時までに終業できないのであれば仕方ありませんが、この場合も「事前申請制」をとる事業所が増えています。事前申請も大別すると、@すべての残業を対象、A一定時間を越える残業を対象、の方法があります。こちらもあわせてご検討いただければと思います。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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