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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《平成30年10月号》
車両事故の多い従業員へのペナルティ
  質 問

【質問者】
 運送業(正社員 10 名、アルバイト 5 名)

【質問内容】
 当社は、運送業を営む株式会社です。昔は労働時間管理等はいい加減でしたが、近年はきちんと対応し、残業代等もきっちりと支払う流れとなりました。法令遵守が求められる時代なのでやむを得ないのですが、残業代支払いが利益を圧縮し、経営に大きな影響を与えているのが現状です。
 そのような背景にあって、問題になっているのが交通事故です。当社のドライバーの多くは、比較的優秀な運転手だと思うのですが、そうでない者も存在します。全体で、年間数件の事故が発生していますが、そのほとんどが 1 人の従業員に集中しているのです。そして、事故の度に現場検証その他事故処理に時間がかかり、その分まで労働時間になるのは納得できません。 さらに、 任意保険は対人対物は賠償されますが、車両の修理代は会社が負担しています。納得できない程度でなく、許せないと感じています。
 そこで、事故を起こした従業員に対する「罰金制度」を創設したいと考えております。基本的に、過失が 5 割を越える事故 1 回につき懲戒処分(減給)として 3 万円。別途、 車両の修理代としてかかった費用全額 (但し、 上限 100 万円) 。 こんな感じです。
法律上、問題ありますか?

  回 答

【交通事故と賠償責任】
 交通事故が発生した際、原則としてその責任は、運転者が負います。しかし、その運転が、事業の執行について行われた場合は、使用者である会社も責任を負うことになります。また、事故を引き起こした車両の所有者(おそらく会社)も責任を負います。この場合、被害者は、 「取れるところに対して損害賠償請求」することになるのが世の常です。
 貴社の場合、対人対物賠償については、任意保険を完備されているようです。従って、被害者からの請求は、基本的に保険金で支払われることになると思われます。ただ、保険を利用することにより、翌年の保険料が高くなったりしますので、できることなら無事故であることに越したことはありません。そのため、免責を設定し、免責額の範囲内で運転していた従業員に負担させる例もよくあります。

【車両損害と求償】
 さて、貴社が所有する車両が被った損害について、運転していた従業員に対して損害賠償請求することが許されるでしょうか。結論は、許されます。実際に損害を受けており、それが従業員の過失によるものだからです。問題となるのは、果たして全額従業員に負担させて良いのかという点です。
 様々な裁判例がありますが、従業員の負担割合として、2 分の 1 から 4 分の 1 くらいの範囲とされているものが多いようです。もちろん、従業員が故意に事故を起こしたケース等であれば、全額賠償が認められる可能性は高いと考えます。
 ところで、例えば車両の損害額が数万円程度で、従業員に全額を請求したところ、従業員がこれを支払った場合は、どう考えたら良いでしょうか。この場合は、本人が賠償義務を認めて支払ったということで、特に問題にはならないのです。従って、車両損害額を全額賠償させること自体が違法だということではありません。ただ、賠償させようとしたところ、訴訟になって争った結果として認められる保障もないという感じです。 私見ですが、 普段は模範ドライバーでも事故を起こす可能性はありますし、そういう場合にモチベーションを下げても会社にとって好ましくありません。全額にこだわらず、半額負担程度に抑えた方が良いかと考えます。

【減給処分】
 減給処分については、明確に法律で上限規制されています。1 事案につき、平均賃金 1 日分の半額を 1 回きり、という内容です。平均賃金 1 日分とは、ざっくりですが月給額の 30 分の 1 くらいです。その半額だと、月給額の 60 分の 1 くらいに過ぎません。即ち、3 万円の減給をするためには、月給 180 万円以上の従業員でなければ対象となり得ません。
 その前に、あらかじめ違約金の額を定めること自体が違法とされています。具体的に「○円」と定めた時点で、違法なのです。減給処分の名で実施したとしても、実質的に罰金であって、違約金の定めに該当するというわけです。
 従って、少額ではありますが、法に遵って「平均賃金 1 日分の半額以下」とするしかありません。月給 30 万円の場合、わずか 5000 円程度です。なお、あらかじめ就業規則に懲戒事由として車両事故について明確に定めておくことが望まれます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
810-0041福岡市中央区大名2-10-3-シャンボール大名C1001
TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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