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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和元年8月号》
トイレ回数・時間が異常な従業員への対応
  質 問

【質問者】
 外科クリニック(正職員 4 名、パート 3 名)

【質問内容】
当院は、外科診療所です。最近当院で最も困っている事案は、勤務時間中のトイレ利用です。人間ですから、トイレを利用すること自体は仕方がありません。しかし、その頻度と 1 回あたりの所要時間によっては、大きな問題になることがあると痛感しているところです。
問題となっているのは、まだ採用後 3 カ月くらいの看護師(正職員)です。問題の内容は、勤務中にトイレに行く回数が異常に多いことです。ほぼコンスタントに 1 時間に 1 〜 2 回トイレに行きます。そして 1 回あたり 5 〜 10 分かかるのですが、たまに20 分くらいトイレから出て来ないこともあります。当初、体調が悪いのかと思い、本人に大丈夫か尋ねたところ、「大丈夫です。昔からこういう体質です。」ということでした。体質と言われると、こちらもどうしようもありません。
しかし、次第に他の職員が黙っていなくなりました。客観的には、当然だと思います。他の職員は、患者さん対応等をずっとしているのに、1 人だけ頻繁にトイレに行ってしまいます。1 日 8 時間勤務ですが、少なくとも 1 〜 2 時間はトイレに行って働いていないわけです。その時間帯は、他の職員が埋め合わせをして働いているのです。せめて本人が申し訳なさそうな態度を取っていれば少しは違うかもしれませんが、そのような素振りも全くありません。職員間の人間関係が悪化していますが、明らかに本人の問題です。しかし、「体質」なのでどう対応したら良いかもわかりません。正直なところ、もう退職して欲しいというのが本音です。

  回 答

【原則】
始業時刻から終業時刻までの間は、休憩時間を除き、所定労働時間に該当します。
休憩時間とは、「完全に労働から解放された時間」とされ、所定労働時間が 6 時間を越えるときは 45 分以上、8 時間を越えるときは 60 分以上を、労働時間の途中に与えることが義務づけられています。
仮に始業時刻 8 時 30 分、終業時刻 18 時、休憩時間 12 時 30 分〜 14 時(90 分)だとします(所定労働時間 8 時間)。この場合、8 時 30 分〜 12 時 30 分と 14 時〜 18 時の所定労働時間中については、法律上従業員は職務に専念する義務を負います。従って、従業員の都合で勝手に休憩してはなりません。仮に事業所が休憩を認めるとすれば、その時間分は労働していないので、その分の給与を支払う義務もありません。
ここから難しい問題が絡んできます。トイレでなく、喫煙のために職場を度々 5 〜 10分離れる従業員がいるとすれば、場合によっては事業所として所定労働時間中の喫煙を禁止するという対抗手段が考えられます。しかし、さすがにトイレに行くことを禁止することはできません。では、トイレにいる時間分の給与の控除が認められるかというと、原則として難しいというのが労働法の世界の実態です。

【可能性】
本人は、「体質」だと言っていますが、ここを確認する必要があります。原因として、体質というよりも病気かもしれません。また、残念ながら、単なるサボりかもしれません。少なくとも他の職員は、「サボっているのに、院長は何も対応しない」と考えている可能性が高いように考えます。最近は、就業時間中にトイレにこもってスマホ操作する悪質な従業員もいるようです。まずは専門医の診断を受けさせることが必要です。仮に異常があれば、就労の可否や就労条件の確認も必要です。逆に異常がなければ、「治らない」ということを意味することになります。
別の視点から、診療所の場合は、就業時間中のスマホ操作等を禁止することも必要かと考えます。問題従業員は、「家族からの緊急連絡とかどうするのか」等と大騒ぎします。しかし、就業時間中の緊急連絡は、診療所あてにすれば問題ない話しです。

【退職勧奨】
仮に体質や病気であったとしても、他の職員に対する気遣いがないため人間関係を悪化させているわけです。その前に、就業時間中に長時間労働しない人材ですから、辞めて欲しいと考えられるのはやむを得ないと考えます。しかし残念ながら、トイレと偽ってサボっていたことが立証できて、しかも注意指導を繰り返しても改善しない場合等でない限り、解雇しても紛争になれば分が悪そうです。
本人の合意が必要ですが、退職勧奨する方法が現実的かと考えます。退職に合意しないのであれば、現実に持ち場を離れることが多く、労働力として支障があるわけですから、短時間勤務に変更することを打診する等も視野に入れておきたいです。労働法の前では、事業所の立場等が全く無視されるのため、悲しくなりますね…。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
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TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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