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福岡!企業!元気!のためのワンポイントQ&A 《令和6年4月号》
育児休業中の就業、「月80時間まで」を疑う
  質 問

【質問者】
販売業(正社員 30 名、パート 10 名)

【質問内容】
当社は、販売業を営む株式会社です。従業員の 8 割を女性が占めます。その関係もあって、最近は育児休業を取得する従業員が増えました。
特に少子化の時代なので、育児休業をする従業員が増えたことは喜ばしいことだと考えています。本音として、従業員の確保が難しい局面なので、休まれると支障がないとは言えません。どうしても他の従業員に負担がかかってしまうからです。それでも育児休業等をしっかり取れるということで、若い従業員の採用にプラスになっている面もあるのはずだと思っています。
まず質問したいのは、育児休業のため負担がかかる他の正社員・パートに対して給与を割り増しして良いかということです。本来の人数より少ない人数で対応している期間だけに限定して、正社員には手当をつけ、パートは時給アップを考えています。
こんな感じで良いのでしょうか。
もう一点質問したいのは、育児休業中の従業員を、少しだけ働かせて良いかということです。聞いた話によると、月 80 時間までなら働かせても本人は育児休業給付が受給できるということでした。もともと月 160 時間くらいですから、半分も働いてもらえれば、かなり助かります。本人も、育児休業給付金を受けながら給与も半分支払われれば、普通に勤務していたときよりも手取が多くなりそうです。ただ、世の中、そんなうまい話ばかりのはずはないと思っています。何かウラがありそうな気がしてなりません。

  回 答

【少ない人数で働く期間の給与】
一つ目のご質問について。非常に良いご対応だと考えます。育児休業中、少人数で対応する従業員の不満を和らげる効果が考えられます。さらには、モチベーションアップにつながる可能性も考えられます。
一点、正社員には手当・パートは時給アップという異なる対応が気になります。「正社員だから、パートだから」という理由で異なる取扱いをすることは、原則として避けていただきたいと考えます。貴社のパートの時給は、言い替えれば基本給だと思われます。これに揃えて正社員の基本給を上げることは、おそらく現実的ではないと思われます。従って、パートにも手当を支給するのが良いと考えます。具体的には、月 160時間勤務の正社員に月 16,000 円の手当を付けるのなら、パートには時給 100 円相当の手当を付けるという感じです。手当を支給する際は、支給条件や支給期間について明確に示しておく必要がありますので、お忘れなくお願いします。

【うまい話しかどうか】
二つ目のご質問。お察しのとおり、そんなうまい話はありません。結論として、月 80時間以下就業させても育児休業給付金は確かに受給できます。受給できますが、満額受給できるとは限らない、ということです。
育児休業給付金は、休業開始時の賃金に対し、当初 6 カ月 67%・その後 50 %が支給されます。育児休業中に月 80 時間以下就業して賃金を得た場合の育児休業給付金は、育児休業給付金(67%又は 50 %)と賃金の合計の値によって、次の二段階の取扱いとなります。
@合計 80%超過(給付 67%=賃金 13%以下、給付 50%=賃金 30%以下)⇒満額支給
A合計 80%超過(給付 67%=賃金 13%超過、給付 50%=賃金 30%超過)
⇒合計 80%を超えた相当額が、育児休業給付金から減額
仮に月 80 時間就業して賃金 50%の場合、給付 67 %と賃金 50 %の合計は 117 %です。80%を 37%超過していますから、育児休業給付金は「67%− 37%= 30%」と減額されるわけです。このとおり、育児休業中に就業した場合、それが月 80 時間を超えたら育児休業給付金は不支給となりますが、月 80 時間以下でも育児休業給付金と賃金を合計して休業開始前の賃金の 80%以下になるようなしくみなのです。

【そもそも「休業」に対する給付】
育児介護休業法による育児休業制度は、「子の養育を行うために休業すること」を認める制度です。休業中に就業することは、そもそも法の趣旨に反します。厚労省のリーフレットには、「一時的・臨時的な就業」として、「月 10 日(超えた場合は月 80時間)以下」については例外的に認め、「恒常的・定期的に就労させる場合は、育児休業をしていることにはなりません」と明示しています。
貴社の場合、一時的・臨時的に育児休業中の従業員に応援を依頼することが、まずは大前提となります。さらに、育児休業給付 67%の期間は月 20 時間(160 時間× 13%)、50 %の期間は 48 時間(160 時間× 30 %)までが、育児休業給付金が減額されない現実的な上限時間になると思われます。

回答者  特定社会保険労務士 安藤 政明

人事労務全般、就業規則・諸規程、監督署調査、労働紛争、社会保険、労災、給与計算、契約書
安藤社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士・行政書士・一級FP技能士/CFP 安藤 政明
特定社会保険労務士・第二種衛生管理者 箭川 亜紀子
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TEL 092-738-0808/FAX 092-738-0888/
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