【ノーワークノーペイの原則とその例外】
賃金は「労働の対償」として支給されます。労働せず休んだ日については、当然賃金は支払われません。このことを、ノーワークノーペイの原則といいます。
このノーワークノーペイの原則には、法律上主に2 つの例外があります。一つは、年次有給休暇を取得した場合です。年次有給休暇は、法律で唯一休んだ日に対して賃金支払いが義務づけられた制度です。もう一つが、休業手当です。休業手当は、「使用者の責に帰すべき事由」により労働者を休業させた場合に、平均賃金の6 割以上の支払いを義務づける制度です。
【今回の結論】
ご質問の趣旨は、「台風の影響を理由とする休業が労働基準法上の休業手当支払い義務があるかどうか」ということになると思います。法律上「使用者の責に帰すべき事由」にあたるかどうかという問題です。実は単純な問題ではなく、個別諸事情によって解釈することになります。そもそも台風が発生して接近してくること自体については、明らかに「使用者の責に帰すべき事由」に該当しません。該当するとすれば、「休業決定の判断」がどうだったかということになります。
行政解釈では、@その原因が事業の外部により発生した事故であること、A事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること、を満たせば使用者の責に帰すべき事由に該当しないとされています。
台風が発生した場合でもその影響が小さく、十分に通勤可能である状況において休業させたのであれば、休業させる必要性が低く「使用者の責に帰すべき事由」にあたります。例えば飲食店等が、台風の影響で来客が少ないことを見込んで従業員を休ませる場合等も同様です。
一方で公共交通機関が運行停止するなど、現実的に通勤できない状況が生じたため休業させた場合は、通常は「使用者の責に帰すべき事由」に該当しないと解されます。
【今後の予測】
仮に事業所が休業を決めず、個々の労働者に判断を任せれば、休業手当の問題は発生しません。しかし、労働契約法は事業所に「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」ことを義務づけています。
台風の影響で公共交通機関が運行を停止し、報道では「命を守る行動」を呼びかけている状況において、労働者が危険を冒して通勤しないよう休業を決定することは、法的にも正しい選択だといえます。従って、貴社の今回の臨時休業の決定は、「使用者の責に帰すべき事由」にあたらず、休業手当支払い義務はないと解します。
台風の影響で公共交通機関が運休することは、地域差もあると思いますが数年に一度くらいは生じることだと思います。会社としてある程度ルールを定めておき、休業決定時に同時に賃金取扱いも通知することで、後日不満を言われる可能性は抑えられると思います。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
|