【職種限定の有無の明示】
令和6 年4 月より、雇用契約書に「職種の異動の有無」と「勤務地異動の有無」を明示しなければならなくなりました。しかし10 年前は、当然このような明示義務はありませんでした。逆に言えば、職種限定の有無が労働紛争の原因となるケースが目立つため、令和6 年4 月よりこのような明示義務が課されるようになったと言えます。
貴社の今回の場合も、雇用契約書に職種限定に関する記載はないようですね。
もう一つの判断材料として、就業規則の規定があります。貴社の場合、職種が限定されていないことが規定されています。言い替えると、「職種異動あり」ということです。問題は、職種異動ありの場合、@従業員がドライバー業務・就業不能、事務職・就業可能である場合、異動させて雇用維持させなければならないかどうか、A雇用維持させなければならない場合は賃金額も維持しなければならないかどうか、の2 点に絞られます。
【片山組事件】
有名な最高裁判例として、片山組事件(平成10.4.9 判決)があります。建築現場監督業務に長年従事した労働者が、疾病のため就業できなくなった事案で、最高裁は、職種限定のない雇用契約は「配置される現実的可能性があると認められる他の業務」が可能であれば賃金請求権を失わないと判示しました。簡単に言えば、ドライバー業務ができなくても、事務職ができるなら異動させよというものです。
貴社の場合、解雇すれば解雇権濫用として解雇無効とされ、従来の賃金のまま事務職を、という話しになりそうです。
※ 給与規程等でドライバーの給与額・事務職の給与額が明確に規定されている場合は、事務職給与水準とすることが可能かもしれません。ただ、職種毎の給与額を明確に規定・周知させている例はなかなかありません…。
【本人と協議】
貴社の状況も理解できます。本人も、単に生活のため給与を得たいというだけのようです。お互いに話し合って、賃金について事務職以上・ドライバー未満の範囲のどこかで合意することが今回の妥協点のように思われます。
仮に本人が強行に従来の給与のままを主張する場合は、事務職に異動させ、その能力が著しく欠けて向上の見込みもない状況を確定するにいたって解雇を検討することになるかもしれません。この場合、解雇に至るまでの間、他のドライバーや事務職にも何らかの支障・迷惑もかかります。やはり今回話し合って妥協点を探ることが、相互の幸せだと思われます。
ちなみに今後の対策として、雇用契約書に職種限定(職種異動なし)と明確にするだけでなく、就業規則でもドライバーが職種限定である旨明確に規定することが考えられます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
|