【「壁」によく見られる誤解】
最初に、3 つの「壁」はそれぞれ算定方法や目的が異なることをご認識下さい。
税金の「壁」は、年間所得という「結果」で決まります。だから、11 月〜 12 月に勤務調整をして、結果を変えようとする人が出てくるわけです。
社会保険に関する「壁」は、年間収入という「見込」で決まります。ずっと無職の人が12 月にフルタイムで就職した場合、その年の年間所得は1 カ月分の給与くらいしかありませんが、その時点で被扶養者の要件を満たさなくなります。そしてややこしいのですが、「106 万円」と「130 万円」とは、全く異なる性質の「壁」です。この点は後述します。
【103万円の壁】
11 〜 12 月の出勤を調整している人がいるとすれば、その「壁」は「結果」で決まる「税金の壁」です。基本的に103 万円を意識しているはずですが、もし「見込」で決まる「社会保険の壁」の106 万円や130 万円を気にして調整しているのであれば、それは完全な誤解です。「見込」の時点で既に本来社会保険加入しなければならないのに未加入、または壁を超えても社会保険加入とならないかのどちらかです。
「103 万円」は、実費相当範囲内の通勤手当は除外して算定します。「給与8.5 万円(年102 万円)+通勤手当2.5 万円(年30 万円)」は、「103 万円未満」となります。
103 万円を超えると、超えた部分だけに税金がかかります。だから、基本的に超えたことで手取額が減ることはありません。配偶者の所得税についても、控除額は150万円までなら変わりません。103 万円を超えて問題があるとすれば、配偶者の勤務先から家族手当が支給されていて、その支給要件が103 万円未満とされている場合等に限られます。
【106万円の壁】
「106 万円の壁」は、誤解を与えるネーミングです。正しくは、「@所定週20 時間以上、A月給見込(通勤手当等除く)8.8 万円以上(12 カ月で105.6 万円⇒ 106 万円と報道される根拠)、B 2 カ月以上雇用見込、C非学生、D被保険者51 人以上の事業所勤務、の5 つすべてを満たすことが正しい「壁」です。50 人以下の事業所勤務者(D満たさず)、学生(C満たさず)、所定労働時間週20 時間未満(@満たさず)のどれか一つに該当すれば、106 万円を超えても「壁」を超えていないわけです。
5 つすべて満たしたときだけ、「壁」を超えたものとして社会保険加入となります(当然社会保険の被扶養者から外れます)。この場合、保険料負担額を超える額を多く稼がなければ、手取額は減ってしまいます。
【130万円の壁】
最後に130 万円、おそらくこれが最重要です。超えたら被扶養者になれません。同時に勤務先で社会保険加入要件を満たさなければ、社会保険加入もできません。個人で国民健康保険+国民年金となれば、社会保険のように勤務先が半分負担するわけでもなく、一番ダメージが大きい「壁」と言えるでしょう。
「130 万円」は、通勤手当等を含みます。既出の「給与8.5 万円(年102 万円)+通勤手当2.5 万円(年30 万円)」は、所得税法では「103 万円未満」でしたが、同じ額で社会保険では「130 万円以上」となります。しかも、11 〜 12 月になって調整すれば良い問題ではなく、この条件で勤務し始めた時点から被扶養者から外れます。
ところで、60 歳以上の場合は「130 万円の壁」は「180 万円の壁」になります。もっとも130 万円の場合も同様ですが、180 万円未満でも社会保険加入要件を満たせば社会保険加入(=被扶養者から外れる)となります。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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