【解雇と退職勧奨】
解雇とは、事業所が一方的に労働契約を解消することをいいます。事業所から労働者に対して退職をもちかけ、労働者がこれに合意して退職することは、退職勧奨にあたります。貴社のケースは、流れとしては退職勧奨にあたりそうです。しかし、労働者に交付したのは解雇通知です。法的にどちらになるかは、個別諸事情を検討することになります。
参考になる裁判例があります(テレシスネットワーク事件、東京地裁令6.7.24 判決)。
貴社と同様に自主退職と解雇を選択させ、本人が解雇を選択したため解雇予告手当を支払って解雇した事案です。判決文を読むと、事業所側は解雇有効を主張し、そもそも解雇にあたらないという主張をしていないように読めます。そのため、裁判所は当然に解雇前提で判断しています。もし退職勧奨であって解雇ではないという主張をしていれば、解雇の形式をとった退職勧奨であると認められた可能性もゼロではないと考えます。解雇予告手当も、退職勧奨合意の和解金という主張です。
【そもそも】
それでも、解雇通知書を出し、解雇予告手当を支払って解雇したという外形を崩せるかどうかわかりません。そもそも選択肢として自主退職と解雇としたことに問題があったわけです。本人が解雇を選択したのは、推測ではありますが、失業等給付で有利になると思ったからではないでしょうか。もしそうなら、解雇でなく退職勧奨でも、雇用保険ではいわゆる「会社都合」にあたります。そして、退職勧奨なら、合意退職なので後日紛争に至るリスクは大幅に低減します。
【取り急ぎ】
過ぎたことは仕方ありません。このまま訴訟になれば、当然ながら敗訴リスクがつきまといます。採用後わずか1 カ月で、しかもお聞きしている限り熱心に注意指導されているようにも感じられません。解雇前提での判決なら、解雇無効となる確率が圧倒的に高いと思われます。
ここで経営判断です。相手方弁護士に連絡して和解金交渉するという選択肢があります。もし納得できる額で和解できれば、紛争は解決します。相手方弁護士としても、裁判になるよりも和解による解決を望んでいると思われます。金額が折り合わなければ、裁判で争うか、解雇を撤回するかという二択を迫られます。
回答者 特定社会保険労務士 安藤 政明
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