みなさん、こんにちは。司法書士の安藤です。
前回は、9種類ある種類株式のうち、「取締役・監査役選解任権付種類株式」について説明をさせていただきました。前回までで、すべての種類株式について、一通りの説明が終了したことになります。
今回は、これまでの9種類の種類株式とは異なりますが、種類株式と同じく通常の株式とは異なる定めをすることができる「属人的株式」について説明をさせていただきます。
まず、属人的株式とは、株式の自由な売買が制限されている株式会社に限り、株主の権利のうち利益の配当・残余財産の分配・議決権について、その持ち株数にかかわらず、「株主ごと」に異なる取扱いができる株式のことを言います。
【株主平等の原則との関係】
さて、株式会社においては、株主平等の原則というものがあります。株主は議決権、配当等において平等に扱わなければなりません。ところで、日本の中小企業は、その大多数が株式の譲渡制限規定がついた会社、つまり、非公開会社であるため、株主の入れ替えがほとんどありません。そのような中小企業においては、株主平等の原則を当てはめることが妥当でない場合もあります。たとえば、ある会社に二人の株主AとBがいるとします。株主Aは出資比率からして大株主ですが、会社経営にはほとんど興味がなく、利益の配当に着眼していて、一方、株主Bは出資こそ少ないものの、経営能力に優れており、会社への貢献度が大きいとします。このような会社において、株主平等の原則を貫くと、会社の経営に興味のない株主Aに経営の大半を任せてしまわなくてはならず、実情に合わない結論が生じてしまいます。
二人の合意があるのであれば、株主Bの議決権を増やして、Bの思う存分に経営力を会社経営に活かすことが可能となり、一方、会社経営に興味のないAも配当を多くもらえるような仕組みを作ってあげれば議決権がなくても満足するのかもしれません。
つまり、非公開会社においては、株主平等の原則を適用しないほうが、株主ひいては会社の経営にとっても良い関係が築けることもあるのです。
【規定例】
属人的株式は、定款に定める必要がありますが、種類株式と異なり、登記をすることは出来ません。定款への規定例としては、以下のようなものが一般的です。
例1. 株主は、株主総会において、各自1個の議決権を有する。
例2. 株主は、株主総会において、その有する株式1株につき1個の議決権を有する。ただし、株主Aは、その有する株式1株につき2個の議決権を有する。
例3. 株主は、株主総会において、その有する株式1株につき1個の議決権を有する。ただし、株主Aは、1000万円未満の資産譲渡を承認する議案について、その有する株式1株につき4個の議決権を有する。
例4. 株主は、株主総会において、その有する株式1株につき1個の議決権を有する。ただし、株主Aは議決権を有しない。
【属人的定め導入に際して考えられる注意点】
(1)株主ごとに異なる定めであるため、当該株主が保有していた株式の承継人には、当該条件は及ばないことなる。
(2)たとえば、無議決権株を属人的定めで設計している場合、株式売却によって、議決権は復活するため、支配比率には注意すべきである。
(3)属人的定めにかかる株主は、種類株主とみなされるため、一定の事項に関しては拒否権を有することとなる。
(4)実例、判例等の蓄積が少ないため、本当のところがわからない。
属人的株式の導入に際しては、上記のとおり解釈が安定していないことによる一定の法的リスクが存在することや、よほど慎重に検討しておかなければ当初の目論見が外れる可能性もあること等を踏まえたうえで、慎重に導入すべきと考えます。発行を検討される際は、専門家への相談をお薦めします。
回答者 司法書士 安藤 功
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