司法書士のつぶやき

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福岡!企業!元気!のための知っておきたい会社の法律知識 《平成28年5月号》
相続放棄と台帳課税主義について

 皆さん、こんにちは。司法書士の安藤です。今回は、最近実務であった固定資産税の納税義務者に絡むお話として、課税台帳主義についての説明をさせていただきます。

【今回の相談内容】
 父が死亡し相続が発生しましたが、残された財産は実家の土地・建物でほとんど資産価値はありません。母は父よりも先に他界し、相続人は私と兄だけですが、二人とも結婚し、実家とは離れたところで生活していますし、遺産としてはプラスの遺産よりもマイナスの遺産のほうが多いため、兄弟二人とも相続放棄をしようと考えております。そんな矢先、実家がある市役所から私宛に固定資産税の納付書が届きました。念のため実家の登記簿を確認したところ、固定資産税の滞納処分による差押えと共に相続人を私と兄の共有名義とする相続登記(代位登記)がなされていました。相続放棄をすることで、固定資産税の支払い義務は免れることはできるのでしょうか。

【台帳課税主義】
 右記登記簿などに登録されている者が真実の所有者でない場合があります。が、その場合でも一部の例外を除き、所有者として登記されている者を納税義務者として課税する方式をとっています。登記されていない土地家屋については、役所が真実の所有者は誰であるかをいろいろな資料から確定して、土地補充課税台帳に登録し、その登録された者が納税義務者となります。

 固定資産税は固定資産課税台帳に基づいて課税されることになっています。このことを台帳課税主義といいます。固定資産税を課税するにあたっては、1)土地については土地登記簿または土地補充課税台帳に所有者として登録されている者。 2)家屋については建物登記簿または家屋補充課税台帳に所有者として登記登録されている者。 3)償却資産については償却資産課税台帳に所有者として登録されている者に納付書を送付します。資産譲渡後の固定資産税は、仮に1月2日以降に所有権の移転が行われても、その年の納税義務者は変更されません。売買契約などで固定資産税の負担割合を所有期間で按分することはありますが、これは、あくまでも当事者間の約束にとどまります。

【今回の解決策】
 相続放棄の効果として、相続人は初めから相続人ではなかったことになりますので、一見、固定資産税の支払い義務も免れるのではないかと考えてしまいますが、先ほどの台帳課税主義にもあるように、登記簿上は代位登記により兄弟二人への相続登記がなされている為、登記簿上の名前が変更されない限りは固定資産税の支払い義務を免れることはできません。この場合、相続放棄後に登記上の名義も所有権更正登記もしくは所有権抹消登記をする必要があります。手続き上は非常に難しいものですので、ご検討の際は専門家への相談を必ずお忘れなく。

回答者  司法書士 安藤 功
会社設立・役員変更・増資・組織再編・事業承継等に関する各種登記手続き
安藤功司法書士事務所
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〒810-0042 福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル5階
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