いわゆる税制適格退職年金制度は,平成24年3月31日をもって廃止されます。
平成24年4月1日以降,引き続き税制上の優遇措置を受けるためには,確定給付企業年金制度,確定拠出年金制度,厚生年金基金制度,中小企業退職金共済制度といった制度に移行する必要があります。
従業員が適格退職年金契約に基づいて支給を受ける一時金で,その一時金が支給される基因となった勤務をした者の退職により支払われるものは,退職所得とみなされます。(所法31三,所令72A四)
しかし,適格退職年金契約の廃止にともなう解除一時金のように,契約関係の変更(終了)のみで何ら従業員の勤務形態又は身分関係に変更がない(退職の事実又はそれに準じた事実等がない)状況において支払われる一時金は,「勤務をした者の退職により支払われるもの」ではありません。
また,適格退職年金契約の解除一時金は,外部拠出型の退職金制度から支払われるものであるため給与としての性質を有しておらず,所得税法第30条第1項に規定する「これらの性質を有する給与」にも該当しません。
したがって,引き続き勤務する従業員に対して支払われる適格退職年金契約の解除一時金は,「一時所得」となります。(所法34@,所基通34-1?)
また,適格退職年金制度から上記の他の制度へ移行する際,他の制度へ移行できない従業員に対して解除一時金が支給される場合や,移行金額との差額が支給される場合も同様に一時所得となります。
【退職所得】(所法30@)
退職所得とは,退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。
【退職手当等とみなす一時金】(所法31三)
次に掲げる一時金は,この法律の規定の適用については,前条第1項に規定する退職手当等とみなす。
一〜二 省略
三 確定給付企業年金法(平成13年法律第50号)の規定に基づいて支給を受ける一時金で同法第25条第1項(加入者)に規定する加入者の退職により支払われるもの(カッコ内は割愛します)その他これに類する一時金として政令で定めるもの。
【一時所得】(所法34@)
一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
【国税庁のホームページより】
@ 引き続き勤務する従業員に対して支払われる適格退職年金契約の解除一時金
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shotoku/02/23.htm
A 企業型確定拠出年金の導入により支払われる適格退職年金契約の解除一時金の課税上の取扱いについて(照会)
http://www.nta.go.jp/fukuoka/shiraberu/bunshokaito/shotoku/20090327/01.htm
【裁決例の要旨】(事例の事実関係等は省略します)
@ 使用人兼務役員として勤務する会社の適格退職年金制度の廃止に伴い,年金信託契約の受託者から受領した一時金は,所得税法第31条に規定する退職手当等とみなす一時金ではなく,一時所得に該当するとした事例(平成20年3月11日裁決)
A 適格退職年金制度から確定拠出年金制度への移行に際し,請求人に支払われた適格退職年金契約の解約に伴う分配金は,一時所得に該当するとした事例(平成18年12月13日裁決)
B 適格退職年金契約の解約により生命保険会社から支払われた一時金は,請求人の退職により支給された一時金ではないから,所得税法第34条並びに同法施行令第183条第2項及び第3項第3号の規定により一時所得に当たるとされた事例(平成16年11月26日裁決)
一般的に,退職所得の方が一時所得よりも税額が低くなります。
制度が継続していれば退職所得だったのに,制度廃止により,そのまま解除や他の制度への移行時の解除一時金等で一時所得になってしまうという場合もあるかもしれません。
平成24年3月31日まで残すところ約1年半です。
移行に際しては,様々なことを検討する必要があると思われますが,廃止期限までもう間もなくです。
回答者 税理士 鵜池 隆充
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