財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成25年7月号》
「経営と財務−再生の条件『債権者への対応』」

 こんにちは。散歩みちも、もう10回を越してしまいました。積み重ねて行けるというな有難いものです。
さて、前回は、自助努力を取り上げました。何かに失敗をしたら十分に反省をして、自らその失敗の要因を改善する努力をする。企業経営に限らず大切なことですよね。
 今回は、会社債権者への対応について少し話してみたいと思います。

【実質債務超過】
 事業再生の場面というのは、資金繰りに窮して債務を返済できなくなった状況で生じます。そして、多くのケースでは、実質ベースで資産より債務の方が多い「実質債務超過」となっています。今回は、実質債務超過のケースを前提に話をすすめます。
なぜ、「実質」という表現を使うのかといいますと、表面的な決算書が債務超過でない場合が多いからです。
経営者のスタンスとして、銀行との関係や取引先との関係、あるいは建設業でいえば経営審査事項といった行政の関係などから、決算書を債務超過にできないという誘因があります。したがって、既に貸し倒れている売掛金や貸付金や長期に滞留していて売り物にならない在庫を帳簿に載せたままにしていたり、固定資産の減価償却を止めていたりすることがあります。中には、架空の売上計上や架空の在庫計上といった粉飾に手を染めている企業も存在します。
当然のことですが、実態と異なる決算書では、債務を返済する原資をどこから持ってくれば良いのか把握することができません。つまり、実質ベースの決算内容を把握することが再生計画策定の第1歩となります。
ここで、ひとつ問題提起をしておきます。
「経営者は、実質ベースの決算内容を知っていますか?」
次の2つのケースは、私が実際に直面した事例になりますが、いずれも、直前になって資金繰りに窮したことが経営者に伝わり、慌てて相談に来られたケースになります。
(ケース1)経理責任者が、実質債務超過であることを経営者や銀行にばらしたくないために、独断で粉飾していた。
(ケース2)経理記帳を任されていた顧問税理士が、赤字にしないために経営者に説明することなしに帳簿操作をしていた。
 ぎりぎりになってのご相談は、検討する時間が限られてきますので、それだけ打つ手も限られてきます。場合によっては、倒産(法的整理)や破産以外に手がないこともあり得ます。
 多少の手間やコストはかかっても、経営者が資金繰りの成り行きや実質ベースの決算書を把握できるように社内への指示や顧問税理士への相談をしておくことが大切だと思います。

【債務の種類】
 債務の返済が滞ったあと、どのように債権者に対し支援を申し出てゆくのか。ということに論点を移したいと思います。
 債務を大まかに分類します。
  「営業上の債務」   :仕入や経費に係る支払手形、買掛金や未払金など
  「金融取引上の債務」 :銀行借入やオーナー一族からの借入など
  「労働者への債務」  :未払給与・賞与、未払退職金など
  「国等への債務」   :未払税金、未払社会保険料など
 今回は、「営業上の債務」と「金融上の債務」について触れてゆきます。それぞれの債務の返済を止めるとどうなるのでしょうか?

【営業上の債務】
「営業上の債務」を止めるとなると、次から手形や掛けでの仕入ができないことになります。つまり、現金仕入か保証金を差し入れた範囲での仕入となります。それでなくても資金繰りに窮している状況ですので、
  手形・掛仕入の停止 ⇒ 仕入量の減少 ⇒ 売上の減少 ⇒ 利益の減少
という流れになります。
 会社更正法や民事再生法などの「法的整理」の手法を選択した場合は、一般的に「営業上の債務」はカットの対象となりますので、上記のような流れとなります。つまり、法的整理の手法は事業性を相当に毀損しながら進めてゆく手法だと言えます。
 よく更生会社や再生会社へのスポンサー支援や買収が行われるのは、健全な第三者企業の信用がなければそもそも存続ができない状態に至ってしまうということなんだと思います。

【金融取引上の債務】
  これに対し、「金融取引上の債務」は、返済を止めても直接的に事業性を毀損することには繋がりません。したがって、まず金融取引上の債権者との交渉をすすめてゆくことが自然な流れだと思います。
 主に銀行などの金融機関への支援要請ということになります。金融機関がその要請を受けるかどうかは、金融機関自体にその要請を受けるメリット(経済的合理性)があるかどうかにかかっているということが大切なポイントです。
当然の話ですが、銀行返済を止める一方で、オーナー一族への借入は返済する。役員報酬を増額する。あるいは配当を増やす。そのような対応では銀行はそっぽを向いてしまいますね。
それはさておき、まずは「リスケジュール」で収まるかどうかを判断します。「リスケジュール」とは当初の返済条件を変更し、当面の返済額を減額してもらったり、あるいは、返済期間を延長してもらったりすることです。
今年の3月末で金融円滑化法は廃止となりましたが、金融庁の方針では、従来通りの中小企業の金融支援を行うよう金融機関へ指導しており、今のところは、比較的相談をしやすい環境にあります。
「リスケジュール」に応じる条件としては、「自助努力」により黒字が出せる事業計画を提出し、金融機関が企業の経営状況をしっかりとモニタリングできる状況におくということになります。
事業計画については、実現可能性のあるものが要求されます。借入額が多額な場合や取引金融機関の数が多い場合は、公平性や客観性を担保するため中小企業再生支援協議会などの公的機関や公認会計士等の第三者専門家の関与を要求される場合もあります。

つぎに、「リスケジュール」では収まらないケースについて、少し触れたいと思います。
つまり、「債権放棄を要請する」、「債務の株式化(DES)を要請する」、「債務の優先順位の劣後化(DDS)を要請する」といった内容が考えられます。いずれにしても、当初の借入額の一部を返済できないことを前提とした支援要請になりますので、銀行のハードルも高いものとなります。程度の差はケースバイケースで異なりますが、次のようなことが要求されます。
「株主責任の明確化」:状況により無償減資など
「経営者責任の明確化」:役員報酬の減額、私財提供、経営者の交代など
「自助努力」:再建計画の結果黒字が予想されること(前回参照)
「経済的合理性」:金融機関にとって、法的整理や破産よりも回収額が多くなること
「事業計画の客観性・公平性」:公的機関の関与、第三者専門家の関与など

近年の動向を見ると、これらの要求事項を満たすにはそれなりの規模が必要なようです。負債総額で数千万円から数億円の企業であれば、前者の「リスケジュール」での対応とするか、あるいは、銀行が債権をサービサーに売却してしまい、企業がサービサーと任意の交渉を続けているケースが多いように感じます。

【思うこと】
 企業が資金繰りに窮した時に、経営者に普段聞かれないような情報がいろんなところから入ってきます。自分が大病を患ったとたんに、その病気に関する情報があちらこちらから入ってくることに似ています。ただ、他人事と思っていい加減な情報を平気で流す人もいますので、本当に注意して頂きたいと思います。
※「民事再生だと経営陣が残れる」などといった安易なフレコミに乗って申請し、結果仕入ができなくなり破産に追いやられることのないようにしてください。 ※「銀行が引当済みなので、債権自体を安く買取れる」などといったエセ専門家の口車にのせられて、債務者である自分の立場を忘れて銀行やサービサーに買取交渉を持ちかけるようなことのないようにしてください(1億円貸し付けた相手から「3百万円で買取るからチャラにして」と言われたらどう思いますか?)。

 ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
 なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
まつお会計事務所
公認会計士 松尾 拓也
福岡県福岡市博多区綱場町6-15 川野ビル1F
TEL092-272-0710 FAX092-272-0711
HP: http://smaken.jp/user/usc_to.cgi?up_c1=43440
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
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