財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成25年8月号》
経営と財務−再生の条件『プロジェクト対応』

 こんにちは。さて、12回目の散歩みち、参議院選挙を明日に控え原稿を書いております。Facebookで、若者の投票率が低いという話題がありました。言われてみると、私自身、義務教育を受ける中で、政治教育って受けてないような思いがします。今の若者はどうなのでしょうか。
 同様に、商(あきない)や政(まつりごと)の教育も、若い頃にほとんど受けていないというのが日本の実情のような気がします。わざわざ、海外にまで留学してそれを学ぶとMaster of Business Administration(MBA)と称されるわけですが、もっと多感な時期に、その導入部分だけでも身に付けることができればよいのに、なんて思います。
 さて、前回まで、再生の条件として『自助努力』と『債権者対応』を取り上げました。
 一方、事業再生は、財務上の整理や債権者との合意が図れればことが終わるという形式的なことではありません。放っておくと最悪の状況に至る可能性がある状況ですので、間に合うタイミングで、適切な計画を立てて対処する必要があります。  誰がするのか? いつするのか? 
 今回は、社内プロジェクトの進め方について少し話したいと思います。

【事業再生のフェーズ(段階)とプロジェクト対応】
 事業再生に限らず、企業の危機対応をどのようにしてゆくのかという視点で見て頂けると、イメージがつくと思います。
 私の経験則ではありますが、次のような段階(フェーズ)を踏むように思います。

【第1フェーズ】初度対応
 実質的に資金ショートした状態が発覚してから、まずは、突然の倒産を回避することを考えます(第9回参照)。ひとまず、必要な債権者に対する説明や一時停止措置をしたり、すぐに換金できる資産を処分したりと急場の対応になります。この段階では、緊急性や情報漏洩の防止といった観点から、少人数の責任者・担当者を決めて対応するのが一般的かと思います。ただ、やみくもに債権者交渉などを進めるとかえって債権者の態度を硬化させることもあり得ますので、この段階から専門家の関与は必要かと思います。一番身近なのは、顧問税理士だと思いますが、事業再生業務の経験のある方かどうかで、まったく対応が異なりますので、顧問税理士の方の経験値が乏しいという場合は、率直に経験者を紹介して欲しいということで相談を持ちかけた方が良いと思います。また、この段階では、民事再生や会社更生といった法的手続きを取る段階ではないので、必要な専門家は、「経験のある公認会計士又は税理士」になろうかと思います。

【第2フェーズ】現況調査(デューデリジェンス)、手法選択
 ひとまず目先数ヶ月の倒産回避が図れた段階で次に行うのが、現況調査になります。会計専門家や金融機関の方は、「デューデリジェンス」という言い方をします。手術に例えると、オペ前の病症検査ということになります。企業が窮境に陥った原因(病症)を把握・分析して、その原因を適切に取り除くための手法(術法)を選択します。
 この第2フェーズにおいても、まだ企業としての方針は決定前の段階ですので、情報漏洩の防止が重要なリスク対応となります。そうしますと、第1フェーズで配置された人員のみで対応するということになろうかと思います。
 なお、専門家については、主要な債権者の意向などにもよりますが、財務面は少なくとも分析しますので、経験のある公認会計士・税理士の関与が必要になろうかと思います。法律的な事項も調査する必要がある場合は弁護士にも依頼することになります。

【第3フェーズ】プロジェクトチーム編成、再生計画策定
 第2フェーズで選択した事業再生の手法に応じて、社内体制の構築と必要な専門家の手配を行います。法的整理を選択する場合と私的整理を選択する場合で対応が大きく変わりますので、分けながら説明したいと思います。

 <共通事項>
 いずれのケースでも、不要資産の処分、赤字事業の廃止、余剰人員・人件費のカット、株主責任・経営者責任の明確化などの自助努力が求められることが想定されますので、財務部門、総務部門、人事部門でそれぞれに対応できる担当者と取りまとめの責任者を配置する必要があります(企業規模により兼任する場合もある)。専門家については、税務上の対応(税理士)、法人登記・不動産登記の対応(司法書士)、人事上の対応(社会保険労務士)、許認可等の対応(行政書士)など、必要な専門家の配置が必要になります。

 <法的整理の場合>
 法的整理とは、会社更生法や民事再生法を適用して再生を図るケースをいいます。この場合は、裁判所への申立ての手続からスタートしますので、一般的には弁護士の関与が必要となります。弁護士が会社の代理人となり、それぞれの法律で決められた手順に従って裁判所や更生管財人・監督委員、その他会社の利害関係者と折衝を進めるがほとんどかと思います。再生計画の策定は、弁護士が主導することになるので、弁護士と連携を図ることができる公認会計士・税理士との契約をするのが効率的かと思います。弁護士単独で計画策定まで請け負うケースもあります。
 なお、法的整理は、申立ての段階で公表されますので、必要な役員・従業員に対しては、申立前に説明をしておく必要があります。また、公表後の社内的な説明対応も準備しておくべきでしょう。

 <私的整理の場合>
 私的整理は、法律上の手続によらず、直接債権者と交渉して任意に合意を図ってゆきます。裁判所も関与せず、私的整理の事実は公表されません。手法の選択に当たっては、主要債権者の意向が大きく反映されることになろうかと思います。
 一般的には、第2フェーズを請け負っている公認会計士・税理士が引続き関与することになると思いますが、債権放棄やデット・エクイティ・スワップなど実質的な債権カットを伴う場合は、弁護士の関与が求められることがあります。
 また、私的整理は、法的整理のように企業の意思決定が裁判所の監督下に置かれるようなことはなく、通常の経営の中で意思決定を図ることになります。したがって、プロジェクトチームを編成する際に、意思決定をする会議体を明確化しておくことがとても重要なポイントとなります。企業の信用が毀損し、経営者責任を問われる中でのプロジェクトになりますので、合理的な意思決定をすることと、一度決めた意思を覆さないことに、特に気を配る必要があろうかと思います。

【第4フェーズ】計画実行・検証
 再生計画の実行段階に入ってくると、当然ながら実務を伴いますので、プロジェクトチームメンバーのみならず、あらゆる従業員に担当が割り振られることになります。
 そのための社内説明会の段取りや人事配置を検討する必要があります。
 また、債権者からは定期的な報告が求められますので、計画と実績との検証が適時にできる体制を作らなければなりません。特に財務部門においては、業務量が非常に多くなる可能性がありますので、従来の人員体制で回るかどうかを慎重に見極めなければいけません。

【思うこと】
 私が関与させて頂く再生案件では、初期の段階でプロジェクトチーム編成を提案しています。一番の目的は、意思決定過程の明確化と迅速化です。非常に専門性の高い分野ということもあって関与する専門家と金融機関に任せきりになってしまって、経営者や事業自体がなおざりにされているように感じることがありました。また、別のケースでは、会議を開くものの意思決定できる人が関与していないため、その会議が徒労に終わり、意思決定が先延ばしになってしまうこともありました。これでは、本当の企業の再生や健全化には向かわないのだろうなと私は思っています。
 株主、経営者、従業員、債権者、取引先、公官庁、すべての利害関係者は、企業の破産を望んではいないはずです。その利害関係者の思いをしっかりと受け止めながら、全社一丸となって事業の再生に取り組み、我々専門家もそれをしっかりとサポートする。そうして組み立てたプロジェクトが完成した時のチームの達成感は、言葉に表せないものがありますし、そこで関わった方々は、いわば戦友のような絆で結ばれます。
 将来の夢や希望が事業再生の厳しい現場にもあるように思います。

 ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
 なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
まつお会計事務所
公認会計士 松尾 拓也
福岡県福岡市博多区綱場町6-15 川野ビル1F
TEL092-272-0710 FAX092-272-0711
HP: http://smaken.jp/user/usc_to.cgi?up_c1=43440
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
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