財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成25年9月号》
経営と財務−事業の承継『問題意識』

 こんにちは。散歩みちも2年目に突入しました。前回までの事業再生の論点は一区切りさせることとして、今回からは、「事業の承継」をテーマに記載したいと思います。
 この数年、あちらこちらで「事業の承継」に関する書籍やセミナーが散見されます。それだけ中小企業の経営にとって着目をされている論点となっています。事業の承継というと自社株や事業資産の相続対策の問題ととらえている経営者の方も多いかと思います。しかし、私に寄せられるご相談は、必ずしも相続対策に限ったお話ではありません。
 初回は、「事業の承継」に関して、どのようなことが問題点となっているのかを鳥瞰してみたいと思います。

【時代背景と事業の承継リスク】
 バブルの崩壊以後、かつてない不況の時代が続いています。多少の景気変動はあるにせよ少子高齢化社会の現実化や不安定な国家財政と社会保険制度の危機的状況など、日本をとりまく経済環境は決して楽観視できる状況ではありません。また、かつての高度経済成長期の日本とは異なり、長期にわたるデフレ経済の下では、不動産等の資産価値が継続的に上昇してゆくようなことは期待できません。
 企業経営についても増収増益を追い求めることで企業価値を高めてゆける時代ではなく、厳しい競争環境の中で、収益に見合うコスト戦略やリストラクチャリングの中での生き残り戦略というのが多くの中小企業経営の実態ではないでしょうか。

   中小企業の大半は、今も昔もオーナー経営であろうかと思います。つまり、オーナー一族が経営に携わっているのが通常だと思います。
 高度成長期で資産価値がどんどん上昇してゆく時代にあっては、オーナー一族による事業の承継が比較的簡単にできたといえるでしょう。少し例えは悪いかも知れませんが、親族の後継者が、創業者ほどの経営の才覚がなかったとしても、それをサポートする番頭取締役を置くことで経営を維持できました。また、それができるだけの資産や利益が企業に残っていました。そのような環境下では、承継する資産や株式に対する相続対策が事業承継問題のメインのトピックになったことかと想像できます。

 それでは、現在の経済環境ではどうでしょうか?
 コスト戦略重視の経営が求められる企業にとっては、例え役員報酬といえども損益を圧迫するほどのコストは負担できません。もうひとつ大切な点になりますが、資産価値の上昇が望めない環境下で、金融機関の融資スタンスが大きく変わってしまいました。昔と違い、金融機関は、資産担保だけをあてにした融資はもうやってくれません。「リレーションシッップバンキング」など言われていますが、特に中小企業に対する融資については、経営者とのリレーション(関係)をしっかりとって、担保・保証に過度に依存しない融資スタンスにシフトしています。つまり、経営者の経営能力や企業の収益力・財務体質を見て融資判断をしているということです。
 このような環境下では、才覚のある経営者が退任した場合、その後継者の経営手腕の如何によっては、企業の存続も危ぶまれるような状況を生みかねないということです。  

【経営者は何を考えるべきか】
 では、事業の承継に当たって経営者は何を考えておくべきでしょうか?
 大きな切り口で見てゆきたいと思いますが、

 「事業活動の承継」
 商い自体を誰に引継ぐかという問題です。先程述べましたように後継者の経営手腕によって企業の将来が大きく変わってきます。後継者が社内を掌握できるのか、取引先や金融機関がついてきてくれるのか、後継者の経営管理能力はどうか、後継者自身に代表者としての自覚育つか、様々な視点で評価を下さなければなりません。不十分な点があるのであれば、経営手腕を磨くための機会を与えられるのか、周りが動揺しないように十分な引継期間が置けるかどうか、不足を補えるだけの社内体制が布けるのかなど、掘り下げてゆくことになります。
 検討した結果、後継者不在という判断を下すことも十分にあり得ると思います。その場合は、M&Aや事業承継ファンドの活用あるいは場合によっては事業の清算といった選択肢を検討することになります。

 「自社株・事業用資産の承継」
 自社株や事業用資産を経営者自身や配偶者などで保有している場合、これらを後継者へどのように承継するのかという問題です。ゆくゆく後継者に自社株を渡してゆかなければ後継者は安定した経営を維持することができなくなる可能性があります。また、事業用資産についても確実に事業で利用できるような形を取っておかなければ、こちらも事業存続に関わる可能性があります。
 親族内の承継の場合は、遺言の残していない場合はもちろんですが、遺言等によりすべての自社株と事業用資産を後継者に渡すこととしていても、遺留分の減殺請求といって他の法定相続人が法定相続分の半額を相続人に請求することができるという仕組みがあり、経営者の死後に話がまとまらなくなるリスクがあります。
 また、非上場株式は事業用不動産についての相続・贈与税の対策も必要です。節税はもちろんですが、承継時に納税資金が確保できないというような事態は避けなければなりません。
 親族以外の者へ承継する場合は、その親族でない後継者にどのような形で株式を渡してゆくかが問題になります。事業用資産についても、事業継続に影響しないような対処を検討する必要があります。例えば、賃貸借契約で済ませていたところが旧経営者の相続に伴い事業用資産が複数の相続人の共有となってしまい契約変更もままならなくなるといったことも考えられます。

 「役員退職慰労金の支給」
 こちらは、事業の承継とは直接関わりのないことのように思いますが、必ず付いてくる論点だといえます。退任後の生活資金の確保、創業者利得の実現、納税資金の確保、自社株の評価を下げるための対策など、役員退職慰労金の支給にはいろんな目的があります。
 ただ税務の世界では、役員退職慰労金(税務上は役員退職給与といいます。)に様々な制限がかけられています。例えば、代表から降りて相談役となったものの取締役会へ出席して意思決定に参加したり、重要な社内決裁をしたり、実質的に経営に参画していると認められる場合は、役員退職慰労金としては認められません。また、過大な役員退職慰労金は損金として認められないケースや支給時期や経理処理方法によって認められないといったケースもあります。  ここも事前に対策を練っておくべき論点となります。

【最後に】
 今回は、詳細な内容は抜きにして事業の承継という問題に対して、どのような切り口で検討をすすめるのかを述べてみました。私がご相談を受けていて思うのは、経営者の方は、自分の企業に対してとても熱い思いを抱かれているということです。ひとつひとつの意思決定には経営者自身の深い考えが反映されます。お話を伺っていて、私自身が一経営者としてまだまだ未熟だなぁと感じさせられることがしょっちゅうです。
 そのような経営者の意志を十分に汲むことと同時に、検討すべき課題や選択肢の提示をしっかりと行って、経営者や後継者、その他企業に関わる方々が後々になって、「しまった」という思いになることのないよう力を尽くさなければならないと思ってしまうわけです。

 ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
 なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
まつお会計事務所
公認会計士 松尾 拓也
福岡県福岡市博多区綱場町6-15 川野ビル1F
TEL092-272-0710 FAX092-272-0711
HP: http://smaken.jp/user/usc_to.cgi?up_c1=43440
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
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