財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成25年12月号》
経営と財務−事業の承継『親族への事業承継』

 こんにちは。一気に冬の形相となっております。このところ、消費税増税に向けての事前準備の話題をよく伺います。会計システムや請求書発行についての税率設定は大丈夫か?請負契約や返品処理などについての経過措置の対応はできるか?店頭での価格表示をどうするか?税率が上がる前に購入しておくものはないか?などなど。早めの対応準備を図って、不測の事態はできるだけ避けたいものです。
 さて、今回は「親族への事業承継」に入ってゆきたいと思います。話を単純化するため、
  ・親から長男への事業承継
  ・事業を承継しない次男が存在する
  という前提で話を進めます。
 「経営権の承継」については、これまで触れてきていますので、「自社株式の承継」が話の中心となります。

【自社株式の承継に当たっての注意点】
 自社株式を承継させるに当たって注意しておくべき点を並べてみます。
 (1)自社株式を後継者に集中させなければいけません。
 一般的に、次の経営を引継ぐ長男に株式を集中させることとなります。以前も触れていますので詳細は割愛しますが、特別決議要件を満たす3分の2以上の議決権保有が望まれるところでしょう。また、株式を承継する方法には、売買、生前贈与、相続など複数の方法がありますので、それらを組み合わせて最適な方法を検討することになります。
 (2)後継者でない相続人(次男)への配慮が必要です。
 被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には、「遺留分」といって、最低でも法定相続分の2分の1の相続を受ける権利があります。仮に、遺言などで長男がすべての遺産を相続した場合でも、弟は、遺産総額の4分の1に相当する額を長男に対して請求することができます(遺留分減殺請求権)。
 また、この遺留分の金額は、生前贈与した財産も含めた上で相続開始時の金額で計算されますので、生前贈与をする際にも、配慮が必要です。
 (3)相続税や贈与税だけでなく、法人税、所得税も含めた上での税金負担を検討しなければいけません。
 売買、生前贈与、相続などの方法により自社株式を承継するわけですが、単に株式の異動に直接関わる税金のみを考慮するのではなく、結果として、会社に係る法人税負担がどうなるのか、役員報酬などに係る所得税負担はどうなるのか、後々の相続発生時の相続税はどうなるのか、相続人全体としての納税額はどうなるのかなど、総合的な視点で、税務対策を検討する必要があります。木を見て森を見ずにならないようにしなければなりません。
 また、納税額などのシミュレーションするに当たって、自社株式の評価が大前提となります。自社株式の評価額がいくらになるのかによって、選択する承継方法が変わってきます。さらに、自社株式の評価額を戦略的に下げることで税負担を軽くしたり、納税資金を確保したり、承継対策の大きな柱となります。
 (4)納税資金を確保しておかなければなりません。
 自社株式の相続・贈与に対して課税負担が生ずる場合は、当然株式は現金ではありませんので、別に納税資金を確保しておかなければなりません。そのための資金対策としては、生命保険、役員報酬、退職金などを活用し、計画的に、被相続人又は相続人の手許に現金が残る段取りを組むことが挙げられます。

【事例の検討】
 事業承継に係る税負担の検討は、どの時点で何税を払うのが良いのか?という視点ですすめます。
(事例1:対策を打たず全て相続した場合)
  ・被相続人 親
  ・相続人  長男(後継者)、次男(社外)
  ・相続財産 自社株式300百万円(長男へ)

  ・相続税 58百万円を長男が負担します。
   1人当たり課税標準(300百万円−基礎控除70百万円)÷2人=115百万円
   1人当たり相続税額115百万円×税率40%−控除額17百万円=29百万円
   相続税総額    29百万円×2人=58百万円
  ・次男は、長男に対し約60百万円の遺留分減殺請求権を持ちます。
   (300百万円−相続税58百万円)÷2÷2=60.5百万円
  ・長男は、納税資金58百万円と遺留分請求額60百万円の資金がありません。
  これでは、長男は経営どころではなくなりますね。

(事例2:生前贈与、生命保険、役員報酬、退職金の活用)  前提として、以下の承継対策を加えます。
  ・被相続人 親(勤続40年で退職し、長男へ代表を譲る予定)
  ・予定相続人  長男(後継者)、次男(社外)
  ・対策前の株式評価額 300百万円
  ・生命保険 半額損金で1億円の保険を掛けます(効果:株価△50百万円)
  ・生前贈与 年5百万円(持分2%)の株式贈与×10年 (持分20%)
        贈与税総額 約5百万円
  ・役員報酬 長男を会社役員とし、役員報酬を10年にわたり100百万円支給
         (効果:株価△100百万円)
         給与所得税 約11百万円
  ・退職金  親の退職時に、役員退職金100百万円を支払い(費用100百万円)。
         同時に、保険を解約(利益50百万円)
         退職時点の株式評価額 100百万円(親80%、長男20%)
         退職所得税 約17百万円 手許資金 83百万円
  ・相続   相続財産:自社株式80百万円(長男へ)
              現金83百万円(うち50百万円を次男、残りを長男)

  ・相続税 58百万円を長男が負担します。
    1人当たり課税標準(163百万円−基礎控除70百万円)÷2人=46.5百万円
    1人当たり相続税額46.5百万円×税率20%−控除額2百万円=7.3百万円
    相続税総額    7.3百万円×2人=14.6百万円
  ・次男には、遺留分以上の相続が確保されている。
  ・長男の納税資金も役員報酬及び相続財産で賄える。
  ・税負担総額 約48百万円(節税効果△10百万円)
 当事者の資金繰りに支障はなく、かつ、税金もトータルで10百万円ほど節税できているという計算です。但し、対策に10数年の期間がかかります。
  ※上記は、簡略化した仮定計算でありすべての前提条件を示しておりません。

 こうして見てみると、払えるタイミングで低い税率の税金を支払う。納税者に手元資金が残るように組み立てる。法律的な対立は避けるように配慮する。といった対策の構図が見えてくるように思います。  また、事業承継対策は、税金対策だけを取ってみても、長期的に対策が必要ということです。実際には、それぞれの当事者の思いや会社の事情なども重なり、いろいろな問題を解決しながら進めてゆくことになります。一部分に拘り過ぎず、全体を見ながら最適な解を目指すということでは、まさに経営に通じることろかと思います。

 ご意見・ご要望などありましたら、下記メールアドレスまでお寄せください。
 なお、当記事は、私の私見であることをお断り申し上げます。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
まつお会計事務所
公認会計士 松尾 拓也
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