財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成27年5月号》
中小企業にとっての企業価値−株式評価の争い

 こんにちは。前回は、株式の価値の評価がまちまちであることについて述べました。今回は、取引当事者が、そのまちまちな株式価値の評価を巡って、どのような争いとなるのかについて触れてみたいと思います。

評価のアプローチ
 株式の価値は、有機的な事業体である企業の株主としての価値を評価するもので、評価の手法も、対象企業や取引当事者の状況に応じて、様々なアプローチがあります。大きく分類すると3つの評価アプローチがあります。

【インカム・アプローチ】
 評価対象会社から期待される利益、ないしキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する方法。将来の収益獲得能力を評価に反映できる。評価対象会社固有の状況を考慮できる。  将来予測に基づくため、客観性に欠ける。
(例)フリーキャッシュ・フロー法、収益還元法、配当還元法など
【マーケット・アプローチ
 類似する会社、事業、ないし取引事例と比較することによって相対的に価値を評価する方法。市場の取引環境を反映できる。予見要素が少なく客観性が高い。評価対象会社固有の状況を考慮できない。  (例)類似上場会社法、取引事例法など
【ネットアセット・アプローチ】
 主として会社の貸借対照表上の純資産に注目して評価する方法。決算書を基礎に、手法により不動産や有価証券の時価を考慮する方法であり客観性が高い。企業の将来性を考慮するものではなく清算価値に近い。  (例)時価純資産法、簿価純資産法など

 それぞれのアプローチには、それぞれ一長一短があり、一概にどのアプローチが正しいというものではありません。株式の評価をするに至った背景や状況に応じて、最も適合する方法が選択される、あるいは、複数の方法をかけ合わせて評価額が決定されます。

株式価値の評価を巡る争い
 株式の譲渡制限を設けている株式会社で、株主から第三者への株式譲渡承認の申請が来た場合に、これを承認しない場合は、会社又は指定買取人がその株式を買い取ることとなります(会社法第140条)。
 この場合において、取引価格は原則として会社と株主の協議によることとされていますが、協議が整わない場合、当事者のいずれかが裁判所に売買価格の決定を申立て、裁判所が価格を決定することとされています(会社法144条)。
 判例を紹介します。

 東京高裁平成20年4月4日決定(金判1295号49頁)
(事案の概要)
 ・ 本件会社は、株式会社で、デジタルコンテンツ配信事業を営んでいる。株主構成は、X社が2400株、Y社が3600株である。
 ・ 本件会社は、設立後さほど年数を経過しておらず、不動産等の含み益のある資産を所有しておらず、これまで配当を実施したこともなく、将来配当を実施する予定もない。
 ・ X社は、その所有する本件会社の株式2400株を譲渡するに際し、同会社に承認を求めたが、同会社はこれを承認せず、Y社を買取人と指定した。
(裁判所の判断の要旨)
 ・ 申立人は発行済株式の総数の40%の株式を有し、経営に一定程度の影響を及ぼすことができる株主であったといえる。加えて、本件では、相手方は本件会社を完全に支配することができることになる。そうであれば、経営権の移動を伴う場合に用いられる評価方式である純資産方式、収益方式を検討すべきであると解される。
 ・ 本件会社においては、清算は予定されていないこと、売上は順調に推移しており、今後も一定程度の利益が見込まれること、資産に含み益がある不動産等は存在しないことなどを考慮すると、インカム・アプローチである収益還元方式を採用するのが相当である。これに対し、創業してさほど年月の経過していない本件会社においては、純資産方式を採用すると株式価値を過小評価するおそれがあるから、純資産方式を併用することを含めて採用するのは相当ではない。

 本件では、裁判所によって、収益還元方式のみが採用される結果となり、それは、他の方法と比較して非常に高額な価格となっています。
 株式の取引価格を決定するために高等裁判所にまで進んでいます。もちろん、協議がまとまらない場合は、法律で認められた手続ですし、全く非難されるようなことではありません。
 しかし、双方に適切な情報があれば、当事者の協議によって済ませることができたはずの取引のようにも感じてしまいます。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
まつお会計事務所
公認会計士 松尾 拓也
福岡県福岡市博多区綱場町6-15 川野ビル1F
TEL092-272-0710 FAX092-272-0711
HP: http://smaken.jp/user/usc_to.cgi?up_c1=43440
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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