財務会計の散歩みち

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福岡!企業!元気!のための財務会計ワンポイント 《平成29年10月号》
財務会計の散歩道−棚卸資産(リスク)

「融資判断をする際は、その会社の棚卸資産の状況を見てから判断をします。」と、ある銀行の役員さんがおっしゃっていました。その会社が、儲かる企業かどうかが一目瞭然だそうです。
 公認会計士も、会計監査を行う時は、必ず会社のたな卸しに立ち会います。仮に、たな卸しが正確に実施されていないと判断する場合は、監査意見が出せないという判断をすることもあります。
 散歩みちでは、度々述べさせて頂いているところですが、在庫は企業の利益の源泉であり、かつ、業態にもよりますが、金額的にも大きな割合を占める重要な資産です。

 ある卸売業のケースを見てみます。

問題D

(金額単位:百万円)
 棚卸資産は、総資産の何%を占めていますか。また、経常利益と比較すると何%になりますか?

 ■ 対売上高棚卸資産比率   14.8%
 ■ 対経常利益棚卸資産比率 428.0%
 ■ 対総資産棚卸資産比率   27.5%
 ■ 対純資産棚卸資産比率  212.0%

 利益に着目すると、棚卸資産が経常利益の4倍以上存在します。
 「貴社の棚卸資産のボリュームを再確認してください。」
 仮に、棚卸資産の1割が無くなったとすると、約4千6百万円の損失が上がります。そうすると、利益の約半分が吹っ飛んでしまうことになります。貴社にとって、棚卸資産がどれだけ重要な資産であるかの認識を深めてください。

 次に、フローの観点から見ると、この企業の売上原価は、約25億円あります(売上高−売上総利益)。
 「貴社の在庫のロス率を再確認してください。」
 仮に、流通量の3%が在庫移動中の破損や紛失で無くなっているとすると、7千5百万円(25億円の3%)が、無駄になっているといえます。ロス率を1%改善する毎に、2千5百万円の利益改善が図れる計算となります。

 さらに、同じくフローに関することですが、25億円の売上原価ですから、月当たり約2億円の売上原価が発生しています。在庫の残高が4億6千万円ですので、2ヶ月分強の在庫を抱えている計算になります。
 「貴社の在庫の回転期間を再確認してください。」
 在庫の回転期間が長いと次のような問題が生じます。
 ・在庫として存在する期間は、資金化できないため資金繰りを圧迫する
 ・在庫量が多くなることで、保管コスト・移動コストが多くかかってしまう
 ・消費期限切れや陳腐化のリスクが増える
 企業にとっての適正在庫はいくらなのかは、商品や商流によってまちまちです。
 ・欠品が生じないこと
 ・長期滞留品が生じないこと
 ・陳腐化させないこと
 などを考慮しながら、個別にコントロールすることになります。

 以上3点の経営的な視点を紹介しましたが、単に会計数値のみを比較するだけでは、正しい経営判断はできません。
 まず、「あるべき在庫数(理論在庫)」を正確に把握する必要があります。入庫数量と出庫数量が的確に記録されていなければ、帳簿に記載されている在庫数量をあてにすることができません。
 そして、「たな卸し(実地棚卸)」を正確に行う必要があります。たな卸し自体の精度が低いと、実棚数があてにできず、計算された棚卸の差異が、在庫ロスなのか計算誤りなのか区別もつきません。

 情報システムの導入やたな卸しの専門業者への委託など、多額のコストかける方法以外にも、日ごろの業務改善により棚卸資産管理の精度を高める方法はあります。次回以降、その業務プロセスのポイントを解説したいと思います。

回答者 公認会計士 松尾 拓也
如水監査法人・如水税理士法人
如水コンサルティング
パートナー
公認会計士・税理士 松尾 拓也
福岡市中央区赤坂 1 丁目 12 番 15 号 福岡読売ビル 9 階 如水グループ内
TEL092-713-4876 FAX092-761-1011
e-mail:info@matsuo-kaikei.com
※当記事は、著者の私見であることをお断り申し上げます。
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