今回はクレーム対応における事実確認について整理したいと思います。
今回のケースでは、現時点で当方に落ち度があるのか、言いがかりなのか、よく分かりません。ただ、誠意を見せろ、ネットに書き込むという表現があることから、不相当な要求をしている、純粋な損害の請求ではなさそうです。
さて、今回の事案については、クレームを受けた担当者としては、「不快な思いをさせたことをお詫びします」という挨拶をすることにはなりますが、その後は、「できるだけの調査をします」という説明をせざるをえません。
では、どのような事実確認がなされるべきでしょうか。
ア 商品の特定
クレームの対象商品が残っていないか、少なくとも、その写真はないか確認すべきです。
電話での第一報の際に、商品が残っているようでしたら、可能な限り保存をしていただくようにお願いをしましょう。また、商品は捨てた、ということであれば、写真がないのか確認をすることが考えられます。
そして、今回は、商品の材料に問題があったかのような指摘ですので、その食品の製造工程に問題がなかったか、同一商品について、他にクレームがなかったか確認をし、当方の落ち度がある可能性を確認すべきです。
また、「変色した材料」とは、何か何色に変色していたのか、確認をすることが必要です。もしかしたら、その色自体には問題がないのかもしれません。
イ 本当に顧客なのか?
何月何日、何時頃に購入したのか、他に一緒に購入したものが無いのか確認することが考えられます。
現在のPOSシステムであれば、レジの販売記録から、一定の時間帯に当該商品が実際に販売されているのか確認できる可能性があります。
また、時間帯がある程度特定できるのであれば、その時間帯の防犯カメラを保存しておきましょう。被害者の来店の事実が確認できるはずです。
ウ 被害の特定:おなかが痛いのか?
電話の際に、最初に確認すべきは、もしもの本当の食中毒の可能性を考慮すると、相手方の健康被害です。
そのためには、まずは「現在も症状があるのか」の確認が不可欠です。もし、「まだおなかが痛い」ということであれば、「直ちに病院に行ってください。」と伝えるべきです。腹痛の原因が当社にあるとは限りませんが、「本日の病院代は当方で負担します」というのも考えられます。
医療費を負担すると申出ることによって、相手方は病院に行けないとは言えないはずです。医師の見解により、原因が特定できるのであれば、腹痛と症状との因果関係も明らかになります。
もし、相手方が「もう治った」というのであれば、それは何よりです。通院の資料があれば提供を求めることが考えられます。
治った、病院には行っていない、慰謝料は必要だ、ということであれば、交渉の終わらせ方としては「検討します」ということになるでしょう。
ここで、検討材料として、購入の事実、商品の問題の事実、健康被害の有無といった点が前提事実として必要になってくるのです。
仮に裁判となった場合には、どの程度の支払いリスク(敗訴リスク)があるのかを見極める、あるいは相手方に当方の見解を合理的に伝えるには、前提事実が明らかでなければなりません。できるだけ多くの事実を調査することが不可欠です。
次回は、もう少し具体的に事実確認をした結果、どのような対応が想定できるのか、検討をしたいと思います。
回答者 弁護士 小川 剛
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