A1 遺言書に必ず記載しなければいけないこと
自分で遺言書を作成しようとした場合(これを自筆証書遺言といいます)には、法律上の決まり、必ず記載しなければならないとされている項目があります。これは、誰が記載したのか明らかにし、変造、偽造を防止し、遺言書の作成日を明らかにすることで複数の遺言書の存在の際の前後関係を明確にする目的があります。
まず、遺言書は、@自分で全文を手書きしなければいけません。パソコンで作成した文書に署名のみを残した場合の遺言については、無効とされると理解されています。もっとも、今日、手書き文書のほうが珍しい中で、このような解釈がいつまで維持されるのかは不明ですが、現在のところ、全文自筆による手書きでなければならないとご理解ください。
なお、自分で記載することが必要であり、第三者が代筆し、本人が署名のみを行なう遺言に効力はありません。
次に、A日付の記載が必要です。記載は元号によるものでも西暦でも構いません。記載した日付けが分からないと無効とされる可能性が高く、「平成29年5月 新緑のまぶしい吉日」といった記載では無効となるとお考え下さい。
そして、B署名、押印が必要です。押印は実印でなくともよいというのが裁判例ですが、本人の記載であることを明らかにするためには、実印によることが望ましいことは言うまでもありません。
A2 作成上の注意点
そのほかにもいくつかの法律上の決まりがあります。
手書きで記載した文書に誤りが見つかった場合、その加除訂正の方法も法律上、定められています(ただし、裁判例では、些細な訂正方法の違いについては、遺言書を有効としている例もあります)。
また、二人で一緒に一通の遺言書を作成すること(共同遺言といいます、)は民法により禁止され、効力が無いと解されています(ただし、裁判上、同じ封筒に入っていたが、用紙が別であった、等の事情により、有効と判断された例もあります)。
A3 記載すべき遺言の内容
遺言に記載する項目は、基本的に自由です。遺言を書こうという気持ちになった、あるいは、書いてもらおう、という気持ちになったのであれば、何か目的があるはずです。まずは、その目的を整理し、その事実に即した文書を記載すればよいということになります。
ただし、遺言書で実現したかったことが、自筆の遺言では、法律上、実現しえない「残念な遺言」となることは大いにありえます。例えば、二男に経営している会社を任せたいと考えていた場合に、「二男に会社のことは任せる」と遺言書に記載しても、この文言では、会社の株式を二男に相続させる内容とは解釈できないと思われます。株式を相続させたいのであれば、「A株式会社株式 1000株を二男に相続させる」と明記しなければいけません。なお、「二男を取締役とする」と遺言書に記載しても、取締役の選任は株主総会での決議事項ですので、この遺言は、事実上のメッセージにとどまり、法的効力を有するかは疑問です。
このように、記載すべき内容は、十分に吟味をしなければいけません。
A4 遺言書を書くのが難しいと思ったら
ここまでの説明で遺言書を自筆で記載することは、極めて難しいことはご理解いただけたと思います。私も相談を受けた場合には、自筆での遺言書はお勧めしません。可能な限り、専門家に相談する、公正証書遺言(公証人役場で作成するので間違いがありません)にするしかありません。せっかく記載した遺言が無効となるのは、もったいない限りです。
次回以降は、遺言書作成の準備作業を説明したいと思います。
回答者 弁護士 小川 剛
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