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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《平成29年7月号》
相続・遺言C 遺言書には何をどのように書けばいいですか?
  質 問

【質問内容】
 遺言書を作成するとなった場合、遺留分に関する紛争を回避する方法はないのでしょうか?

  回 答

 A1 遺留分対策
 遺言書を作成したいが、全て長男の財産とし、二男には何も残さない、という遺言書を作成した場合に、遺留分に関する紛争も回避できないか、というご相談は少なからずあります。

(1)遺言書を作成しない
 本来、もっとも望ましいのは、被相続人の生前に、長男に遺すべき財産を贈与してしまい、遺言書を作成しないことで遺留分の問題を生じさせないことです。遺留分対策として、「遺言書を書かない」という回答は、回答になっていないと言われるでしょうが、それほど遺留分対策は困難な問題です。
 ただし、この生前に贈与を完了する方法にも問題はあり、生前の贈与時にかかる税率は相続税より高いことが一般的ですし、例えば、自営業の自社株式を早期に長男に渡した結果、被相続人と長男と反目した場合に、株式を取り戻そうと考えても、もう間に合いません。後継者選びに失敗すると、取り戻せないのです。このように自社株式を贈与するのであれば、経営権も完全に渡すなど、相応の覚悟が必要です。

(2)信託は有効か?
 さらに、最近では、民事信託の活用により遺留分対策が出来るような話を聞くこともあります。しかし、遺言を信託方式で行ったとしても、一般的に、信託だから遺留分の規定の適用が無いとは考えられていません。信託で、あたかも遺留分を回避できる、相続税を回避できるような説明がなされるケースを見てみると、生前に贈与を完了させるものであったり、法人に財産を移転する等、単純な信託ではないと思われます。もちろん、この場合にもデメリットは何かしら存在します。信託だからといって遺留分に関する紛争を回避できているとはいえないと考えていますので、信託を検討中の方は、デメリットを含め十分に仕組みを理解することが重要です。

(3)遺留分が発生することを前提として考える
 端的には遺留分を完全に回避する遺言書作成は難しいと考えます。とはいえ、「少しでも長男に多く遺したい、二男には遺したくない」という場合に、一般的にとられている手法をご紹介します。
 まず、二男の遺留分割合を減らすために、法定相続人となる子を増やすことが考えられます。具体的には、養子縁組をすることになります。本件では長男の子のうち2名を被相続人の養子とします。これにより、二男の法定相続分は2分の1から4分の1に、遺留分割合は4分の1だったものが、8分の1になります。
 ここまで割合を下げることが出来れば、随分と気が楽になると思います。
 次に、例えば、事業継続に不可欠な財産がある場合に、遺留分減殺の順序の指定をすることが考えられます。自社株式や経営に必要な工場などを長男に相続させ、遺言書内において「遺留分減殺の順序は預貯金、有価証券の順とする」としておけば、長男は少なくとも自社株式や工場を失うことは有りませんので、紛争が生じたとしても、不動産や株式を共有とするようなことは避けられることになります。もっとも、この方法の場合には、相応に預貯金が遺されていることが重要になってきます。

 このように遺留分対策を万全とするのは大変なことです。次回からは、遺言書を作成する場合の文例を検討したいと思います。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
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