A 前回に引き続き、相続法の見直し案を確認し、その背景事情を説明したいと思います。
1 遺留分の扱いについて
(1)金銭請求を原則とする
現在は、遺留分の請求に対し、その現物での給付が前提とされています。このため、多数の不動産について遺留分減殺請求事件が判決となり価額賠償によらない場合には、判決は、不動産について、それぞれ持分1億2345万6789分の1234万5678の所有権取得を命ずるといった判決となっていました。見てわかるとおり、これで紛争が終わるとは考えられず、結果的に、不動産を共有することは、訴訟まで行った当事者間において、極めて不都合な事態になることが予想できます。
現在は、このような場合のために、価額賠償により金銭賠償をすることが可能とされています。不動産登記などを考慮すると、共有不動産は処分が困難となるので、このような方針となることは望ましいと考えます。
なお、現在の法制度においても、あらかじめ遺留分対策をとることができるのであれば、遺言書に遺留分減殺の順序を記載し、預貯金から減殺する、と記載しておけば対応は可能です。
2 自筆証書遺言の方式の緩和、法務省保管など
(1)自筆証書遺言の方式緩和
現在、自筆証書遺言は全文の自署が求められており、財産目録を添付する場合にも、全て自署することが予定されています。また、訂正の場合には、訂正の方法が法律により定められています。このため、3つの不動産を各相続人に相続させたい場合には、その全てを自筆することになります。それを財産目録については、自筆によらず、署名押印で足りるとする改正案です。現在社会では、ほとんどの書類が自筆されず、パソコンなどで作成されているのですから、このような改正は早急に行われるべきですが、改正が実現した場合、遺言書の最も重要な財産目録について偽造等が容易に行えるという懸念もあります。そうであれば、やはり公正証書遺言を使用したいという考えになるのも理解できます。
なお、この改正は実際にはなされていませんので、くれぐれもご注意下さい。
(2)自筆証書遺言の保管制度
自筆証書遺言を作成した場合に、それをどこに保管するかは悩ましい問題がありました。本当に安全な場所はありませんし、何より、自分の死後に見つけてもらえるかも分かりません。これを法務局が保管してくれるのであれば、大変ありがたいことです。もちろん、現在でも公正証書遺言であれば、公証人役場が預かるわけですから問題はありません。
しかし、公証人役場で作成する遺言書には費用を要することになります。もちろん、公正証書遺言であれば、間違いの無い完璧な遺言書の作成が可能という代えがたいメリットもあります。
例えば、被相続人の法定相続人として子2名がおり、長男は音信不通、二男が家業を継いでいる場合に、「二男に全ての財産を相続させる」との遺言を作成し、法務局に預けることが出来れば、公正証書遺言の作成費用を軽減させることができます。なお、公正証書遺言については不動産が多数の場合には、その不動産の価値等によって費用が加算されることになりますので効果は大きいかもしれません。
あるいは、長いメッセージを添えたい場合に、公正証書に記載することには抵抗があるが、自筆証書遺言にメッセージを添えることも考えられるかもしれません。
3 その他にも改正点が示されていますが、実現するのかどうかも現時点では不明確ですので、この議論については、このあたりまでとしたいと思います。
以上
回答者 弁護士 小川 剛
|