A 契約で工夫はできないか
前回、明渡しに要する時間が提訴から1年近くかかる可能性があること、家賃5万円のマンションでも明渡しに関する支出が100万円程度になりかねないことを説明しました。
自分の所有マンションについて賃料を払わない入居者がいるだけで、このような時間と費用は不合理だと考えるのも、当然のことだと思います。特に執行については時間と費用のコストが膨大なものとなります。実に不合理です。
このような話をすると、自力救済を考えたくもなる気持ちも理解できなくはありません。少し検討しましょう。
(1)勝手に鍵を替えてよいか?
残念ながら、勝手に鍵を替えると、かえって大家さんに対する慰謝料請求の可能性もあります。これは違法と考えるべきです。
同様に無断立ち入りも問題となります。立ち入る際には、警察官に同行してもらうなど、相応の対応が必要です。
(2)契約書に「家賃滞納時は鍵を替えて、残置物を処分するが、借主は異議を述べない」といった特約は有効か?
前項のとおり、鍵を替えるような行為は賃借権、居住権の侵害となりかねませんので、特約に記載があっても違法性がある行為と判断される可能性が高いです。
また、「残置物を処分する」といった趣旨の記載は、一般的な賃貸借契約書でもよく見かけます。しかし、裁判においては、この条項の趣旨は、入居者が自分の荷物を出した後で、残された明らかに不用品と分かる荷物を処分することができる旨を記載しているに留まり、つまりは、「ごみを捨ててよい」といったものであって、入居者の家財道具を勝手に捨ててよいということにはならない可能性が高いです。
(3)連帯保証人に対応を依頼する
執行等に要する費用についても連帯保証人がいれば、その連帯保証人に請求することが可能です。この点で、執行に費用が要すると困ってしまうという点では貸主と連帯保証人の利害は一致します。貸主としては、明渡し判決の取得までを行い、連帯保証人にも鍵を管理させ、動産の処分を連帯保証人の責任で実施してもらうことが考えられます。
(4)鍵の管理と動産の処分権だけ借主の親族に引受けてもらう
例えば、賃借人の親族や友人の方に、連帯保証人の引き受けは困難だとしても、鍵の管理と荷物の処分権を与えてもらい、費用負担はしてもらわないとしても、荷物の搬出だけでもその方との合意により行えるようにすることが考えられます。
これにより、判決を取得した後に、直ちに荷物を搬出することが出来るようになります。実際の契約書で見たことはありませんが、連帯保証人ではない第三者に権限を付与する旨の書面を賃借人と第三者から取得することで、執行費用、執行に要する期間を省略することができると思われます。
賃貸借契約におけるトラブルのうち強制執行の手続についての解説は以上とし、次号以降は賃貸借の異なる場面について説明をしたいと思います。
以上
回答者 弁護士 小川 剛
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