賃貸借契約の解除について
前回まで明渡しに要する手続について説明をしました。
今回からは、そもそも明渡しが認められるのか、という点について検討をしたいと思います。
(1)まず、賃貸借契約では、単に契約違反があったからといって、直ちに契約解除できるというわけではありません。賃貸人と賃借人の「信頼関係の破壊」がなければ、裁判において契約解除が認められないことになります。
例えば、月額10万円の賃料のマンションで、1回だけ5万円の入金しかなかったとします。家賃の不払いは信頼関係破壊の最も分かりやすい状況です。大家さんにとっては、「信頼関係は破壊された」と考えるのも当然のことです。金銭の支払の遅れこそ、信頼を喪失するものはありません。
しかし、ここでいう「信頼関係の破壊」は、裁判所での評価によるものです。おそらく、賃料1か月の滞納では、裁判所が認める「信頼関係の破壊」には至っていないと判断され、解除できないとされることが多いと思いわれます。
(2)では、どの程度の状況となれば、信頼関係の破壊といえるのでしょうか。
この点についても明確な規程はありませんが、感覚的には3か月分の賃料滞納状況であれば契約解除に相当する「信頼関係の破壊」が認められると考えます。
ただし、この滞納額が3か月分とは、連続3回不払いという場合もありますが、入居者が遅れながら支払をしている場合、半金ずつしか支払をしていないということであれば、累積して3か月分に達するには、賃料の遅れから半年ほど経過している場合もあると思います。
このような遅れが生じた場合には、内容証明郵便で「催告」を行ったという履歴を残しておくことが重要です。催告されたにもかかわらず支払が無いという事情は、信頼関係の破壊の考慮要素となりえます。
(3)1か月分の滞納で解除する旨の特約の効力
賃貸借契約の特約で、「1か月分の賃料滞納が認められた場合、即時に解除できるものとし、賃借人は異議を述べない」といった合意がなされているとします。このような特約の効力はどのように考えるべきでしょうか。
一般的には、借家人にあまりに不利な合意は有効とされません。本件でも、特約があるからといって1か月分の賃料の遅れで「信頼関係の破壊」として解除できるかというと、裁判では、それは認められない可能性が高いです。
(4)大家さんに出来ること
入居者の賃料の遅滞があれば、その都度、催促をし、その履歴を残すことです。そして、賃料滞納が3か月分に達する場合には、速やかに解除手続を行なうべきです。
また、その後に解除に費用を要することを考えると、敷金はできるだけ確保しておきたいところです。特に、賃料が高額な場合には、敷金の備えが重要となってきます。
以上
回答者 弁護士 小川 剛
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