前回までに、事業譲渡と株式譲渡による売買の二つのスキームを比べてみました。そのうち、事業譲渡で想定していたのは、会社の全部の事業を譲渡するようなスキームでしたが、事業譲渡は、会社が複数の事業を行なっている際に、特定の事業だけ譲渡することも可能です。
例えば、A社が飲食店事業と雑貨販売事業を行なっていたとします。そのときに、雑貨販売事業をB社に譲渡するような場合です。あるいは、A社が飲食店を2店舗経営しており、うち九州地区の店舗は自社で経営をするが、関東地区の店舗はB社に譲渡するというような場合があります。
このような場合に、雑貨販売事業や関東地区の事業をB社に事業譲渡することがスキームとして考えられますし、似た効果を実現するものとして、A社を分割し、その分割した会社を譲渡するという方法があります。
1 事業譲渡と会社分割の違い
前回までにおいても説明しましたが、事業譲渡において取引先とは個別に契約をする、同意を得るといったことが必要です。一方で、会社分割の場合には、債権債務が分割会社に承継されるので、個別の契約に関する手続は不要となるのが本来です。ただし、取引先に個別の同意がいらないといっても、債権者保護手続を要することになります。債権者保護手続は、各債権者に通知を送る、官報に掲載するという手続を要することになりますので、結果的には、取引先との協議は不可欠になると思われます。
また、労働契約についても、事業譲渡では各労働者の契約を変更するのに、各労働者の同意が必要となりますが、会社分割では、個別の同意は不要とされます。ただし、会社分割の場合には、労働承継法による労働者の保護手続があります。いずれにせよ、労働者の意向を無視して移籍させることは出来ませんが、根拠となる法律の適用の有無が異なることになります。
その他、会社分割の場合には、登記をする必要があるなど、様々な点で異なる場面が出てくることになります。
2 会社分割の注意点
まず、株主が複雑な場合には、どのように会社を分割し、誰がどの会社のどれだけの株主になるのかの整理が必要となります。
この点が整理できないのであれば、会社分割を実施することは難しいかもしれません。
なお、株主の整理については、別途、説明をさせていただきます。
以上
回答者 弁護士 小川 剛
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