現在、福岡、東京等では裁判も停止しており、弁護士の業務も変化が訪れようとしています。まだ、我々は業務がありますが、今回の新型コロナウイルスの影響により、極めて甚大な影響を受けている業種が多数あります。
とにかく、一刻も早い収束を願うばかりです。
ここまでM&Aに関する記載をしていましたが、一度、休載とさせていただき、今回は、新型コロナウイルスの社会への影響を考慮し、関連する法律問題について解説をしたいと思います。
Q 飲食店を経営していますが、新型コロナウイルスの影響により、大赤字です。持ち帰り商品だけではどうにもなりません。スタッフは休業してもらうつもりですが、店舗の家賃負担が固定費として大きな負担となっています。どうにかならないでしょうか。
A 飲食店にとって賃料は大きな固定費です。今回のコロナウイルスの影響において、人件費、そして賃料をどうにかしたいところかと思います。人件費については、解雇あるいは休業等による雇用調整助成金等に関する情報が多く出されているところです。
これに比べて賃料については、なかなか手をつけることができません。
あるテレビ番組のコメンテーターが賃料は払わなくていい、といった旨の発言をしたとのネットニュースも見かけました。
しかし、収入が無いからといって賃料を一方的に削減したり、支払いをしないといったことは認められません。
賃料を受け取っている貸主は、その賃料収入で生活をしている、あるいは建物のローンを支払っている可能性もあります。法律では、賃料減額請求といった権利も記載されていますが、今回の新型コロナウイルスの影響が認められるかは未知数です。これを決めるのは裁判所ですが、裁判所は現在、動いていません。裁判の結果を待つなど、到底不可能な状況です。
法的な回答ではないかもしれませんが、借主は賃料を下げてほしいのであれば、貸主に丁寧に説明をするしかありません。3カ月間の賃料減額の申し入れ、あるいは敷金を多く預けているのであれば、敷金からの充当を期待して、1か月分の支払い猶予を得ることもできるかもしれません。
貸主としても、賃料を減額しなかったことで借主が倒産したら意味はありませんし、現状では新たな入居者を探すのも難しいと思います。交渉の余地は十分にあると思われます。
交渉の結果、合意が成立すれば、賃料減額あるいは猶予の合意書を交わしておく必要があります。
参考までに、私が作成した合意書(覚書)の例を紹介します。この覚書では賃料を4割減額し、1年後に支払いをすることを予定しています。なお、途中解約の場合には、期限の猶予はなくなるようにしています。
>>>以下、書式
覚書
貸主株式会社A(以下、「甲」という。)と借主株式会社B(以下、「乙」という。)とは、甲と乙との間の末尾記載の本件物件に関する事業用賃貸借契約(店舗)(以下、「本件賃貸借契約」という。)について、本日、次のとおり合意する。
1 甲は、乙の経営環境等に鑑み、乙に対し、2020年4月分、5月分、6月分の家賃のうち各月の家賃50万円のうち各月20万円(3カ月合計60万円)について支払いを2項に定める期間猶予する。
2 乙は甲に対し、前項の猶予された賃料合計60万円を、2020年10月分から2021年9月分の通常の賃料に1か月あたり5万円(12回合計60万円)を上乗せして支払う。
3 乙は甲に対し、1項、2項に定める支払い猶予について、2021年9月までに退去する場合、1項の支払い猶予を除き約定された賃料の支払いが1回でも遅滞した場合には、2項の弁済猶予の利益を喪失するものとし、直ちに未払い賃料及び猶予された賃料の全額を支払う。
4 本合意に定めるほかは、本件賃貸借契約に従うものとする。
以上
本件物件の表示
住所 福岡市中央区***
建物の名称 小川たちばなビル
本物件に関する賃貸借契約(本件賃貸借契約)の表示
貸主 甲
借主 乙
賃料 月額50万円(消費税込み)
契約期間 2015年1月1日から2014年12月31日
連帯保証人 丙
>>>>ここまで。
とにかく、一刻も早い収束を願うばかりです。この借主も、ちゃんと復活して、また支払いができるようになることを期待しています。
以上
本説明は本原稿掲載日時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。
回答者 弁護士 小川 剛
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