前回は法務DDにおいて、契約書のチェックを行うということ、その中でも「要承諾契約」の確認について、指摘をさせていただきました。
今回は、具体的に例を確認したいと思います。
(1)賃貸借契約
賃貸借契約は借主が誰であるのかは重視されることがありますし、賃貸借契約書において解除理由とされていることがあります。なお、賃貸借契約書に明記されていない場合であっても、実質的な賃借人が変更になることは、契約解除事由になりえますので注意が必要です。
このため、M&Aに先立ち、貸主に対して「会社の名称や従業員は変更にならないが、株主が変更になるが、契約はそのまま継続してほしい」ということを伝えておく必要があります。
さらに、M&A後にトラブルにならないように、あらかじめ賃貸人から「承諾する」旨の書面を得ておくことがあります。
このように、売主たる会社の従前の契約上の地位について、M&A後も契約先が地位の承継を要する契約を「要承諾契約」といい、チェックをしなければならない項目です。
(2)取引先との関係
賃貸借契約もそうですが、特に、主たる取引先との関係でも注意が必要です。
商取引においては、「大手販売店の〇〇に口座を持っている」ということに大きな価値があることがあります。この場合、大手販売店と対象企業との間の契約書において、「主たる株主等の変更」が契約解除事由になっている可能性がありますので、注意を要します。
なお、取引先の企業、前項の賃貸人もそうですが、承諾する義務はないのであって、条件を付すこともあります。
賃貸借契約であれば、敷金の増額、賃料の増額を打診することも考えられますし、契約書の変更を要するとして、礼金の支払いを求められる例もあります。
また、取引先についても、当然に承諾すると考えがちですが、相手方にとっては、M&Aの買手の企業が気に入らないということもあり得るのであって、契約書における記載の確認、承諾の取得は重要な事項となります。
(3)買主の対応
買主は要承諾契約について、承諾をしていることを売主に保証させ、その違反については、違約金が生じるという設定をすることが通常です。
(4)承諾を求められた場合には
一方、取引先がM&Aの対象になることは珍しくありません。取引先から、会社を売却しますが、今後も、お付き合いください、と言われた場合には、どうすればよいのでしょうか?
良好な取引先であり、何ら問題がなければいいのですが、新たな会社に信用があるのか、連帯保証人の変更をすべきなのか、今後も担当する従業員の変更はないのか、といった点をチェックし、承諾をするのか検討の上、対応をすることになります。
買手の会社に、上記を確認できる資料の開示を求めることが望ましいと考えます。
次回は、労務面について検討をしたいと思います。
以上
本説明は本原稿掲載日(令和3年5月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。
回答者 弁護士 小川 剛
|