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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和3年9月号》
M&Aについて 法務DD(労務面のDD)について3

 これまでに労務DDに関し、7月号で(1)就業規則・賃金規程等の整備状況、(2)退職金規程、(3)雇用契約、(4)賃金台帳・タイムカードの確認について、8月号で(1)賃金制度、評価制度、昇給、賞与制度、(2)労働組合の存在、36協定の有無の確認について説明をしました。
 今回は残りの労務関係のチェック項目について説明致します。

1 有給休暇
 有給休暇について、付与日数、消化具合を確認する必要があります。有給休暇は法律上、最低付与日数、実際の取得日数の定めがありますので、これに違反していないことを確認する必要があります。
 また、長時間労働の有無とあわせ、生産性をチェックする必要があります。仮に長時間労働、有給ゼロで生産性を維持しているのであれば、それはM&A後には同一の生産性は維持できないのですから、追加人員の必要性を検討しなければなりません。
 一方で、突出して有給休暇の取得数が多い方には理由がある可能性があります。もちろん有給休暇の取得は労働者の権利ですので、付与されて全てを使っても構わないのですが、例えば、怪我をしている、病気になっているので、通院日を有給休暇としている可能性もあります。会社によっては、有給休暇を全て消化しても温情により、有給で休みを与えている場合もあります。そのような特殊事情がある社員がいるのであれば、把握しておくべきです。

2 定年、再雇用、雇用延長等
 定年により人員が減るタイミングを把握し、人員の補充が必要か否か、仮に余剰人員であれば早期退職を求めることは可能なのか、退職金コストがあるのかといった点を検討しておく必要があります。

3 派遣会社の利用、業務委託の有無
 会社によっては、直接雇用の従業員が少ないものの、実際には派遣会社を利用している、業務委託により業務を外注化している例もあります。これらは直接の労使関係にはありませんが、生産性を担っている労働力には変わりはありませんので、派遣会社との契約状況、人数、業務継続の見込みを把握する必要があります。

4 労災、労働基準監督署による指導
 過去の労災の有無、労基署の指導等について把握をします。労災については、労災の内容、当該従業員の現状、紛争の有無、労基署の指導については内容、是正を求められたのか、是正対応をどのようにしているのか把握をしておく必要があります。

5 懲戒
 懲戒処分歴、懲戒内容、懲戒制度について確認をする必要があります。

6 従業員面談
 労務関係は人の問題ですので、想定外の事情が生じることもありえます。十分なヒヤリングを行うことが必要です。また、経営者から事情を聴くだけではなく、従業員面談を通じて従業員の意見を聞くこともあります。もちろん、従業員に秘匿で進めている案件もあるでしょうし、全社員を面談することは現実的ではないでしょうが、コアとなる従業員と面談をするだけで、その会社の印象が大きく変わることもあります。可能な限り、実施をしたいところです。    労務関係のDDの説明についてはここまでとし、それ以外の項目について説明をしたいと思います。

                                                 以上
 本説明は本原稿掲載日(令和3年8月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
HP  http://t-o-law.com/
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