今回は、私が経験したM&A、DDについて少し紹介をしたいと思います。私が関与する例としては、法務DDのみを実施する場合、契約書の作成に関与する場合、一方当事者の代理人となる場合があります。
具体的な例をご紹介いたします。
食品製造業のDD
1 M&Aの概要
加工食品を製造しているA社は、経営は順調でしたが、後継者がいませんでした。施設が老朽化しつつあること、今後の食品規制、人材確保の困難といった長期的に取り組むべき経営課題がありました。経営者は70歳を目前にし、長期的課題に取り組むことへの不安がありM&Aを検討するに至りました。
メインの卸先に相談したところ、購入の希望を示したので、同社に購入することを決意。買手は総額2億円を銀行借り入れにより調達。買手の依頼により2週間で主たる点についてDDを実施しました。
なお、買手としては自社工場が手に入るということに加え、これまで購入していた商品がより安く入手できるというシナジー効果が狙えました。
また、製造ノウハウ、人材を確保する点でも買手にとってはメリットが大きく、一方で、同業他社が取得してしまうと仕入れ先にレシピを得られる可能性があるほか、供給停止、あるいは単価の上昇を招いてしまい、この意味でも同取引先を確保する必要がありました。
このように、シナジー効果が分かりやすい事例です。
当事務所のDDでは、シナジー効果の有無、市場性、成長性についてもコメントをする例が多く、本件ではシナジー効果があるというメリット、買収しない場合のデメリットを報告しています。
2 DDの概要
会社への訪問2回。代表者からの聞き取り2回、その後補充的な確認を1回実施しました。
調査の結果、以下の懸念点を指摘するに至りました。
(1)株主について
定款、株主総会議事録、取締役会議事録、代表者の聞き取りにより調査を勧めました。歴史のある会社であり7名の発起人がいましたが、そのうち数名は名義だけ、死亡している方もいるという事情がありました。なお、実際には名前だけ出しており、当事者にも発起人、株主の自覚はないというケースでした。
一部の株主については、一定の金銭(10万円)の支払いをし、株式を買い取りました。いきなり権利者と言われた方も10万円が得られたことで支障なく合意に達することができました。
その他、約1%の名義人が連絡がとれないという事情がありましたが、持株比率が極めて低いことから、代表者の株式ではない可能性があるものの、後日、第三者株主が登場してもスクイーズアウト等の対抗手段を執り得るということで、M&Aの中止事情とまでは評価しないとし、その分の金額の値下げをすることが相当としました。1%の値下げについては、売主も快諾されました。
(2)不動産について
不動産は事務所から近隣であり、登記簿、図面の確認に加え、現地の確認を行いました。
一部が社長の個人名義であり、社長個人と売買契約を締結する必要があり、その契約の妥当性、瑕疵担保を負わない旨の合意、固定資産税の負担等について確認をしました。
さらに、配偶者の土地を第2工場で使用しており、売買の対象とするのではなく、同工場は賃貸借契約とすることから、賃貸借の期間等の条件の確認を行いました。
また、実際に現地を見ると建物は老朽化が進んでおり、工場設備、建物の修繕費用について買主はリスク把握をする必要があることを報告しました。
その他、労務面等に関するDDを実施しましたが、続きは次回と致します。
以上
本説明は本原稿掲載日(令和4年2月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。
回答者 弁護士 小川 剛
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