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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和6年1月号》
M&A 事業譲渡と契約の承継

先日、法人売却によりM&Aを予定していた企業が、急遽、事業部門別に異なる譲渡先に譲渡することになりました。取引先の一部はどこにも引継ぎができず廃業することになり、契約解除をしなければなりません。そのような取引先には行政機関も含まれていました。このような特殊な取引先を含む事業譲渡では、どのような点に留意する必要がありそうでしょうか?

1 M&Aにおける契約の承継
M&Aの際には契約が承継されることを前提とされていると思いますが、その契約が必ず承継されるものであるのかは確認が必要です。
契約書によっては、合併、事業譲渡等を契約の終了理由とされている契約も存在します。

2 継続的契約を一方的に終了できるか
前項とは逆に、M&Aに伴って、特定の取引を終了させる必要が生じる可能性もあり得ます。
例えば、A事業、B事業、C事業を営む企業の代表者が急死してしまい、もはや家族が承継することは難しく、会社の存続を模索したものの、結果としてA事業とB事業の承継はでき、従業員もA事業もしくはB事業に承継したものの、C事業の承継ができない、というような場合です。
このような場合、C事業を途中で解除しなければならないので、解除に関する費用を計上する必要があります。
契約によっては、解除事由が制限されており、数か月前に通知を要する場合があります。また、契約解除によって相手方が損害を被るのであれば、その損害を補填しなければならない可能性があります。
もっとも、取引先と十分なコミュニケーションを重ねていれば、事実上、同種業者と取引を開始すれば、事情は理解してもらえるかもしれません。
一方で、行政機関との取引の例だと、例え取引先を紹介したとしても、違約金が発生する可能性があります。随意契約の場合には入札により1年間の契約が設定されている場合が多く、倒産等を除いては途中解約は想定されていません。後任の取引先を紹介するというわけにもいかないので、行政は再度入札をしなければならないことになります。
そして、契約書には違約金の設定もなされていることが通例ですが、仮に行政に損失が無いとしても、違約金を免除する根拠がないので、違約金の支払いは生じることになります。
このような問題を避けるためには、契約期間、解除のタイミングを十分に把握しておくことが必要です。代表者の死亡等により経営ができない場合であり、やむを得ないとは思いますが、契約を続けられない場合には、それに伴うコストが発生する可能性があり、M&Aのコストとして計上しておく必要があります。
時間の制約があるM&Aでは、当初の段階で契約解除のコストを計上できていない場合もありえますので、コストをかけずに契約解除できるのかという観点からもDDにおいて契約を見直していただく必要がありそうです。

                                                 以上    

本説明は本原稿掲載日(令和5年12月)時点の情報により記載され、適切に更新されていない可能性がありますので、ご注意下さい。

回答者 弁護士 小川 剛
小川・橘法律事務所
810-0041福岡市中央区大名2-4-22新日本ビル8F
電話092-771-1200 FAX 092-771-1233
HP  http://t-o-law.com/
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