Q社:弊社はZ社に商品を販売しているのですが,Z社が破産するそうです。商品代金が未払いなので,商品をZ社から引き揚げてもいいでしょうか?
A
取引先が倒産した場合,代金は実際上,支払ってもらえないので,納入業者としては商品の引き揚げを強く求めたいところですが,他方で売買契約の成立により商品の所有権は買主に移転することや,破産手続では管財人が関与し,債権者間の公平が重視されることから,商品の引き揚げには以下のような問題が生じます。
以下では@破産手続開始前とA破産手続開始後に分けてお話しします。
1 @破産手続開始前
買主であるZ社と協議して売買契約を合意解除して商品の引き揚げを行う方法が考えられます。
但し,破産法では総債権者の平等を確保する観点から,管財人に,「否認権」という権利が認められているので,合意解除とこれにもとづく商品の引き揚げが総債権者を害する不当な行為と認定された時には,管財人から否認権を行使されるリスクがあることに御留意下さい。
2 A破産手続開始後
(1)破産手続開始により,破産者(Z社)の管理権は管財人に移転します。
そこでまずQ社は管財人に対して,一方的に契約を解除して,その効果として商品の所有権がQ社に復帰した,として商品の引き揚げを主張することが考えられます。
しかし契約の解除の効果は第三者には対抗できないとされています(民法545条1項但書)。
そして管財人は本項でいう「第三者」にあたると解されていますので,一方的な解除によって引き揚げを主張することはできないことになります。
(2)なお動産の売主には,動産売買先取特権という権利が認められています。
これは売却し引渡した動産について,競売申立ができる権利であり,破産手続開始後でも行使できるのですが,引渡そのものを認める権利ではありません。
(3)上記のように商品引き渡し後に買主が破産してしまうと,商品の取戻しはできないのが原則になります。
そのため予め買主との間で所有権留保特約を結んでおき,これに基づき商品の取戻しを請求することができます。
なお所有権留保特約に基づき所有権が認められる場合でも,自由に引き揚げしていいというわけではありません。
法治国家では自力救済が禁止されていますので,例え所有権が認められても,債務者の承諾なく商品を引き揚げると違法となり,民事上の損害賠償義務や返還義務を負う他,刑法上は窃盗罪に問われます。
ですから引き揚げに際しては管財人の承諾を得る必要があります。
管財人の承諾が得られるまで時間がかかる見込みの場合は,写真を撮っておくなどして現場を保全しておいた方がいいでしょう。
回答者 弁護士 仲家 淳彦
|