弁護士徒然草

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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《平成30年1月号》
民法改正C 「瑕疵担保責任から契約不適合責任へ」

1 ドグマという言葉をきいたことがありますか?
 本来は宗教上の教義を指す言葉ですが,そこから転じて,独断など否定的・批判的ニュアンスで使われる言葉です。
 弁護士や受験生,法学部生など民法をかじったことのある人たちにおいては,「ドグマ」という単語は「特定物ドグマ」という言葉で記憶されていると思います。
 今回は「特定物ドグマ」という言葉が登場する,瑕疵担保責任についてのお話です。

2 「買ったものに欠陥がある!」こんな場合の,売主の買主に対する責任追及については,改正前の民法は,目的物の性質によって大きく二つに分けられていました。
 特定物と種類物です。
 特定物とは,物の個性に着目した分類で,種類物とは種類・品質・数量に着目した分類です・・・といっても何のことやらわからないですよね。
 特定物は,他に替えがきかない,この世に唯一のもの,と言えます。
 例えば不動産は「なんとか市なんとか町なん番地」に所在する不動産はひとつしかなく他に替えがききませんから特定物ですし,名画も同じくひとつしかなく,他に替えがきかないから特定物です。
 これに対して種類物は,複数あって替えがきく物と言えます。  大量生産品などがその一例です。

3 改正前民法は,特定物について欠陥がある場合には,欠陥が隠れていて,買主が相当な注意をはらっていても分からないときに責任追及できるとしており,責任追及は契約の解除か損害賠償しかできず,しかも欠陥を知ってから1年以内に行使する必要がありました(なお,これは買主に過失がなくても負うものとされていました。また物の引渡から10年を過ぎてから欠陥に気付いた場合は,もう責任追及できないとされていました。)。
 これに対して種類物に欠陥がある場合は,欠陥のない他のものを引き渡すまでは売主の債務は果たされていないので,買主は売主に欠陥のないものを引き渡すことができるとされていました。
 このように目的物が特定物か種類物かで責任追及の内容が違うのは,特定物については「その物」の引渡を行えば売主の責任は果たされているのであって,隠れた欠陥がある場合にのみ,特別に買主を保護しようという考えに基づいています。
 この考えが,「特定物ドグマ」と呼ばれる考えです。なるほど,欠陥のあるものを引き渡しておいて,責任は果たされているなんて,普通の感覚からすると批判的に評価される考えですね。

4 しかしながら,不完全な物を引き渡しておいて責任が果たされているとする前提に対する批判や,種類物と特定物で効果が異なることへの批判などから,この度の民法改正では,このような特定物と種類物で分ける考えを排しました。
 すなわち,特定物,種類物を問わず,売主は買主に対し,契約内容に適合した物を引き渡す義務を負うこととし,物が契約内容に適合しない場合には,売主が買主に債務不履行責任を負うこととしました。
 責任追及の内容としては,解除,損害賠償に加え,追完請求,代金減額請求が認められます。
 もっとも責任の性質が債務不履行責任とされましたので,売主に過失がある場合でないと責任追及はできません。
 なお責任追及できる期間については,不適合を知ってから1年以内に売主に通知することとなっています。

回答者 弁護士 仲家 淳彦
あゆみ法律事務所
弁護士 仲家 淳彦
830-0023福岡県久留米市中央町37-20 久留米中央町ビル5階
電話0942-65-9277 FAX 0942-65-9280
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