わりとよくある相談として,お隣とのトラブルがあります。
隣の塀が自分の土地に侵入しているとか,隣の人が自分の私有地を毎日車で通行するとか。
お隣さんとは接触が多い分トラブルになる頻度も高いので,民法は「相隣関係」という項目を設けて,通行権や流水,建物間の距離,目隠し,に関するルールを設けています。
相隣関係に関するルールで面白いのが,竹木の「枝」や「根」が侵入してきた場合のルールです。
民法は,「根」が侵入してきた場合は「切り取ることができる」と定めているのですが,「枝」が侵入してきた場合は「切除させることができる」と定めています。
つまり枝については勝手に切ってはいけないことになっているんですね。
なんで根は切っていいのに,枝は勝手に切ってはいけないのかという理由は,いまだにわかりません。
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根が侵入してきた場合として思い出されるのが古典落語の「筍」です。
ある侍の庭に隣家の筍が顔を出します。
侍はこの筍が食べたくなったのですが,勝手に切るのは,はばかられるので,家来に命じて,隣家に「お宅の筍が当家の庭に侵入した,戦国時代ならスパイも同然の振る舞いなので召し取って手打ちにする」と宣言するよう命じます。
これに対して隣家は,やはり自分も筍を欲しいので,「手打ちは仕方ありません・・・しかし亡骸は返して下さい。」と頼みます。
隣家の回答を家来から聞いた侍は,「もはや手遅れ,筍はすでに食べてしまった。形見のお召し物だと言って筍の皮だけ返してこい。」と家来に命じます。
そして家来から筍の皮だけ受け取った隣家が「おお,こんな姿に変わり果てたか,可愛や,皮・嫌」というのが落ち。
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もちろんこの落語が出来た時代に民法の規定などありませんが,民法的にみると侍は筍を勝手に切ってしまっていいということになります。
しかしそれだけで終わらせると何の面白味もないわけで,筍を食べたい両当事者が,知恵と含蓄のある言い回しを用いて,かつ,論争を楽しむような心の余裕をもってやり取りする点に面白味があるわけです。
相隣関係の問題は,法的には,権利の侵害ということになるのでしょうが,実際に相談に来られたり,裁判になる場合は,お隣さんとの感情のもつれが紛争の原因であることがほとんどです。
お隣さんとは末永く付き合わざるを得ないのですから,権利主張も心の余裕をもって行いたいですね。
回答者 弁護士 仲家 淳彦
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