弁護士徒然草

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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《平成30年6月号》
後見人はお葬式を挙げられる?〜後見人の「死後」事務

 弁護士の仕事として,成年後見というものがあります。
 これはおもに,認知症等で判断能力のなくなった方(後見を受ける方なので「被後見人」といいます。)について法定代理人となり,契約を締結したり,財産を管理したりする仕事です。
 被後見人の方が亡くなった場合,後見人の仕事はそこで終わりになります。
 なぜなら代理人(後見人)はあくまで本人(被後見人)あってのものであり,本人が亡くなれば,後見人の代理権はなくなるからです(民法第111条第1項,第653条第1号)。
 しかし,実際上,後見人が「もう代理権がない」と言って拒否することは忍びないこともあります。
 後見終了後の事務については,従前からも,民法第874条におい,第654条等の規定による「応急処分」として後見人により行われてきました。
 しかしこれらの規定では,後見人が行うことができる事務の範囲が必ずしも明確でなく,実務上,後見人が対応に苦慮する場合がありました。
 そこで,「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」という法律(これを以下「改正法」といいます。)が平成28年4月6日に成立し,平成28年10月13日から施行されました。
 この改正法により,後見人が被後見人の死亡後に行える一定の「死後事務」の内容と要件が定められました。
 「死後事務」として定められたのは,@個々の相続財産の保存に必要な行為,A弁済期が到来した債務の弁済,B火葬又は埋葬に関する契約の締結等といった一定の範囲の事務です。
 なおこれら「死後事務」を行うには,(ア)後見人が当該事務を行う必要,(イ)被後見人の相続人が相続財産を管理することができる状態に至っていないこと,(ウ)後見人が当該事務を行うことにつき,成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかな場合でないことが必要です。
 @個々の相続財産の保存に必要な行為とは,相続財産に属する債権の時効の中 断や,相続財産である建物の修繕行為などが挙げられます。
 A弁済期が到来した債務の弁済としては,被後見人の医療費,入院費や公共料 金等の支払が挙げられます。
 Bは,火葬・埋葬契約の締結の他,相続財産全体の保存に必要な行為ですが,「相続財産全体の保存に必要な行為」としては,被後見人所有の動産類の保管のためにトランクルームの利用契を結んだり,被後見人の居室の電気・ガス・水道等供給契約を解約したりする行為等が含まれます。
 なおこれらBの事務を行うには,上記.〜.に加え,.家庭裁判所の許可も必要となります。
 ところでBの火葬・埋葬に関してはまず,遺骨の引き取り手がいない場合に納骨の契約も結べるか問題となります。
 この点納骨に関する契約も「火葬・埋葬に関する契約」に準ずるとされています。
 次に「葬儀を執り行うこと」もできるか問題となります。
 これについては改正法によっても葬儀を行うことはできないとされています。葬儀には宗派,規模等によって様々な形態があり,形態や費用をめぐって,後に相続人との間でトラブルが生ずるおそれがあるからです。
 しかし身寄りがない場合にまったくお葬式のようなものができないとなると,気の毒な気がしますね。
 そのため後見人が,後見事務とは別に,個人として参加者を募り,参加者から徴収した会費を使って無宗教のお別れ会を開くことは可能と考えられています。
 法律に基づく運用にも,人間の気持ちというものは大事ですね。

回答者 弁護士 仲家 淳彦
あゆみ法律事務所
弁護士 仲家 淳彦
830-0023福岡県久留米市中央町37-20 久留米中央町ビル5階
電話0942-65-9277 FAX 0942-65-9280
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