弁護士徒然草

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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《平成30年12月号》
相続法改正C 持戻し免除の推定

1 遺産分割では,相続時に残っている財産(遺産)を,相続人が相続分に応じて分割します。
  (事例1)
  Zの相続財産(300万円)妻X:1/2=150万
               子A:1/4= 75万
               子B:1/4= 75万

2 もっとも相続人の一部が被相続人から遺贈または生前贈与を受けていた場合,残っている遺産だけを分けるのは不公平ということで遺贈または生前贈与を受けた分は「特別受益」として,遺産の価額に合算し,合計額を相続分に応じて分けることになります。
 上記の例で子AがZからZの生前に100万円の贈与を受けていたとします(事例2)。
 すると,現在の遺産300万円に生前贈与の100万円をたして,Zの相続財産は400万円とみなします。
 これを相続分に応じて分けると,
 妻Xは1/2の200万円
 子Aは1/4の100万円
 子Bは1/4の100万円   となります。
 そして子Aはすでに100万円をもらっていますから,遺産分割では現在の遺産300万円からは1円ももらえず,遺産の300万円はXが200万円,子Bが100万円というかたちで分けます。
 この特別受益を相続財産に加算することを「持戻し」といいます。
 この持戻しは必ずなされるものではなく,Zが,遺産分割の時に持戻しをしなくていいという,「持戻し免除の意思表示」をしていれば,持戻しはされません。
 上記の例でもZが持戻し免除の意思表示をしていれば,生前贈与の100万円は加算しませんから,事例1の例のとおりに300万円を相続分に応じて分割します。

3 そして今回の改正法で定められたのが,配偶者保護のため,婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者に対する居住用不動産の遺贈または贈与については持戻し免除の意思表示があったと推定する旨の規定です。
 例えば事例2を変えて,
 妻XがZからZの生前に100万円相当の居住用不動産の贈与を受けていて,かつZが持戻し免除の意思表示をしていなかったとします。

(1)改正前の現行法によると,
 現在の遺産300万円に生前贈与の100万円をたして,Zの相続財産は400万円とみなし,これを相続分に応じて分けると,
 妻Xは1/2の200万円
 子Aは1/4の100万円
 子Bは1/4の100万円   となるところ,
 妻Xはすでに100万円を受益していますから,遺産分割では100万円のみ取得し,残りの200万円をABが100万円ずつ取得します。
 しかしこれだと,贈与・遺贈をした意味があまりなくなり,せっかく居住用不動産を贈与又は遺贈したZの意思に反するのではないかというのが改正の趣旨です。
 すなわち,被相続人は配偶者の生活保障のためにあえて居住用不動産を贈与・遺贈するのだから,その意思を尊重し,配偶者の生活保障を図ろうというのです。

(2)このような趣旨に基づく改正法により持戻し免除の意思が推定される結果,配偶者への居住用不動産の贈与について持戻しはされませんから,現にある300万円は事例1と同様に相続人が相続分に従って分割することになります。

回答者 弁護士 仲家 淳彦
あゆみ法律事務所
弁護士 仲家 淳彦
830-0023福岡県久留米市中央町37-20 久留米中央町ビル5階
電話0942-65-9277 FAX 0942-65-9280
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