弁護士徒然草

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福岡!企業!元気!のための法律ワンポイント 《令和元年6月号》
「新郎並びに新婦の入場?」〜公用文のお話

1 結婚披露宴で司会者が「新郎並びに新婦」と言うたびに顔を見合わせている参加者がいたら,おそらく法曹関係者か役所の人間です。
公用文書の作成の際に用いられる,「公用文作成要領」のルールでは,「及び」が使われない文に「並びに」は使われないからです。

2 「及び」と「並びに」は「&」という意味であり,日常用語ではあまり区別されません。
(1)しかし公用文では区別され,下記のようなルールに従います。
@第一次的に使うのは「及び」であり,「及び」を使わない文中に,「並びに」は登場しない。
A一つの文中に,大きい段階の接続と小さい段階の接続が生じる場合に, 大きい段階の接続に「並びに」が使われ,小さい段階の接続に「及び」が使われる。
(2)例えば,憲法7条は天皇の国事行為について
1号:憲法改正,法律,政令及び条約を公布すること。
5号:国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
 と規定しています。
1号では公布の対象が,段階としては同じであるため,「及び」だけが使われています。
これに対して5号では
国務大臣 & (法律の定めるその他の)官吏の「任免」
            と
    全権委任状 & 大使(&)公使の信任状の「認証」
  という2段階の構造になっているため,「及び」を内包する2つの文章を,大きいくくりの「並びに」でつないでいるのです。

3 「又は」と「若しくは」
(1)公用文ルールでもうひとつ有名なものに「又は」「若しくは」があります。
「又は」「若しくは」の使い方は,以下のルールに従います。
@単純な選択的接続の場合は「又は」を使う。
A選択に段階がある場合に,大きい選択に「又は」を用い,小さい選択に「若しくは」を用いる。
(2)何人も,外国に移住し,又は国籍を離脱する自由を侵されない。
憲法22条2項です。保障される(侵されない)自由として,外国移住の自由と,国籍離脱の自由を選択的に挙げています。
(3)単純選択の例としてもうひとつ。
すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。
憲法14条1項です。
(禁止される)差別の理由として,人種,信条,性別,社会的身分,門地を選択的に掲げ,更に差別の場面として政治的関係,経済的関係,社会的関係を挙げています。
(4)「又は」と「若しくは」が使われる(段階的選択)の例として,適正手続を定めた憲法
31条があります。
何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない。
法定手続がないと許されない行為として,@奪う行為とA刑罰を選択的に挙げ,更に@の中で,奪う対象として,?生命or?自由を選択的に挙げているのです。

4 もうひとつ、公用文ルールとして有名なものに「、」(読点)ではなく「,」(カンマ)を使うというのがあります。
一般の方は「、」(読点)を使うからか、「,」(カンマ)に違和感を覚える方が多いようです。

5 今回は公用文についてお話しました。何気なく使う言葉ですが,役所に提出する文書で公用文ルールに従って書くと,「分かっている」人だと思われるのではないでしょうか。
なお結婚式でいちいち「並びにではなく,及びだよね」と口にするのはお勧めしません。野暮なだけなので。

回答者 弁護士 仲家 淳彦
あゆみ法律事務所
弁護士 仲家 淳彦
830-0023福岡県久留米市中央町37-20 久留米中央町ビル5階
電話0942-65-9277 FAX 0942-65-9280
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